最終年度に取り組んだ中心的課題は、韓国のジェンダー秩序の再構築である。 韓国男性への聞き取り調査を積み重ねていくにつれて、「公益勤務」を経験した男性が、研究課題を設定した当初に想定していた「周縁的」で「権力をつかめない」存在であるとは言えない事例が数多く得られた。公益勤務は代替服務の一つ、つまり制度として存在しているため、経験者は「軍畢(義務兵役を終えた者)」となる。韓国社会で重視されるのは「軍畢」と「未畢(兵役の義務をまだ果たしていない)」の差異であり、「軍畢」の側にいる彼らが、就職市場で不利益を受けたり、除隊後に何らかの差別を被ったりする機会は実質ない。つまり、「軍畢」であれば特に不自由なく日々を過ごすことができ、専門職になることも大企業に就職し昇進していくことも可能なのである(しかしながらこのことは、社会生活を送る男性が「軍畢である」ことが前提とされているという点で、韓国の軍事化を示す例である)。 彼らは自身が公益勤務要員であったことを積極的に話すことはない。調査協力者の多くは、徴兵制について肯定的で、かつ公益勤務制度は不要であると考えていたが、自身の経験も国防の義務を果たしているため「現役」に劣ることはないと考えていた。制度的には不要であるが自身の経験は無駄ではない、このある種の矛盾が彼らの中で両立していることが、韓国のジェンダー秩序が維持される一つの要因であると結論づけた。ネガティブな評価を受ける存在でありながらも、その後の人生で権力を掴むことも可能な公益勤務というポジション。彼らは、自身の経験を積極的に公にすることをせずに既存のシステムに適応することを生存戦略として選択しているのである。 ジェンダー秩序の構築に大きな影響を与える徴兵制。その存廃をめぐる議論が韓国でムーブメントとならないのは、現役の影で制度を支持する公益勤務経験者の存在が、一つの要因である。
|