終末期医療における延命措置の中止や差し控えといったいわゆる消極的安楽死の道徳的な是非について、行為の道徳的評価はその結果としてもたらされる状況の良し悪しのみによっては決まらないとする非帰結主義の立場にのっとって検討するタイプの議論の特徴を整理し、考察した。とりわけ、たとえ消極的安楽死が病人にとってより幸福な結果をもたらすとしても、それが病人が人格として備えている尊厳の価値を冒すなら、正当化できないとする主張について、妥当性を検討した。研究の結果、このような主張のなかには、さまざまな含意を慎重に精査しても、あきらかにおかしいとして否定することがかんたんにはできないものも含まれることが分かった。
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