研究課題/領域番号 |
24720009
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
西村 正秀 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (20452229)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 哲学 / 知覚 / 視覚的注意 / 概念 |
研究概要 |
平成24年度は、知覚において視覚的注意が果たす役割を考察し、注意が非概念主義をいかなる仕方で支持し得るのかについて検討した。現在、注意に着目して非概念主義を擁護する代表的論者には、A. RaftopoulosとA. Roskiesがいる。前者は、V. LammeやZ. Pylyshynなどの認知科学者の諸理論に基づき、知覚内容が概念的になるには注意による脳の記憶領域・高次認知領域からのフィードバックが必要であるという論拠から、前注意的な視覚内容の非概念性を主張した。一方、後者は、指示詞的概念の形成に着目し、指示詞的概念の形成に必要とされるトップ・ダウン型の注意が意識的な知覚内容に対して払われることから、前注意的な視覚内容の非概念性を主張した。これらの議論は共に「前注意的な視覚内容は意識的かつ表象的である」という前提に基づき、非概念主義を擁護している。本研究では、この前提が経験科学的見地からは十分に支持されていないことを確認した上で、Raftopoulosに対しては、彼の議論では前注意的な視覚内容の表象性が上手く説明できないことを、Roskiesに対しては、指示詞的概念の形成には必ずしも非概念的内容の存在を措定しなくてもよいことを論じた。以上の成果は、注意に依拠して非概念主義を擁護する現在の議論が十分な説得力を欠くことを明らかにしたという意義を有する。 本研究は、イリノイ大学シカゴ校のD. Hilbert教授との研究打ち合わせ(2013年3月)を通じて推敲され、同年3月30日に研究会「京都現代哲学コロキアム」第6回例会のワークショップ「知覚と心」において「視覚的注意と非概念主義」というタイトルで口頭発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究の目的」において平成24年度の課題としていたのは「知覚において注意が果たす役割の検討」であり、より具体的には、注意が適用される前の知覚経験の本性を検討することによって、注意と非概念的内容の関係を精査することであった。この課題については、「研究実績の概要」で記したように、注意に訴えても、非概念的内容の存在という哲学的テーゼは現状では必ずしも十分には支持されていないという結論を得ることによって、解答の大枠は示されたと考えられる。 ただし、以下の二点については今後さらに進めていかなければならない。第一に、Roskiesに対して論じた、非概念的内容に依拠しない指示詞的概念の形成の在り方について、より詳細な検討と説明が必要である。第二に、本研究の成果は現時点では研究会における口頭発表に留まっているので、今後は論文として投稿するなどのさらなる発表を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は次の仕方で研究を推進していく予定である。まず、平成24年度の研究で残されていた指示詞的概念の形成に関するより詳細な検討を行う。具体的には、S. CareyやE. Spelkeなどによる幼児の概念形成に関する心理学的説明を考察しながら、非概念的内容に依拠しない指示詞的概念形成の可能性を検討する。次に、知覚内容と記憶の関係を検討する。視覚に関する記憶と注意は密接に関係している。一部の非概念主義者によれば、アイコニック記憶に保存される内容は非概念的である。本研究では、視覚に関する記憶にどのような種類があるのかを整理した上で、各記憶にどのような性質を持つ内容が保存され得るのかを、Raftopoulos, I. Phillips, J. J. Prinz, S. M. Kosslyn, A. Baddeleyなどによる視覚記憶に関する心理学・哲学的文献を用いながら検討する。最後に、これまで得られた結果を基に、知覚内容は非概念的であるのか否かという問題に解答を与える。 以上の研究は基本的に文献を基に進められるが、平成24年度に引き続き海外における知覚の哲学の専門家との研究打ち合わせも取り入れていく予定である。なお、平成25年度は最終年度となるので、研究成果を研究会や学会での口頭発表ならびに論文として公表し、それをもとに研究報告書を作成する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は直接経費の内、23,151円分が残額となった。これは図書の購入が年度内に完了しなかったためである。平成25年度は、平成24年度の残額を図書費に加えて、図書費173,151円、旅費300,000円(海外旅費含む)、その他50,000円(印刷費など)を計画している。
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