本年度は、(1)指示詞的概念の形成に関するより詳細な検討と、(2)アイコニック・メモリの内容を根拠とした非概念主義擁護論の批判的検討を行った。(1)については、S. CareyやR. Baillargeonなどの心理学者が提唱する生得主義を援用しながら、非概念主義に依拠せずとも指示詞的概念の形成を自然主義的に説明できることを示した。(2)については、(i)アイコニック・メモリの内容は注意を受けたものであること、(ii)(i)を認めた場合、非概念的内容と概念的内容の区別は維持できなくなることを論じた。 以上の成果は、指示詞的概念の形成やアイコニック・メモリという経験科学の知見が概念主義と整合的であることを示したという意義を有している。ただし、これらの考察から仮に概念主義が正しいとしても、知覚経験は一つの概念的内容を持つのか、あるいは、その形成段階に応じて異なる概念的内容を持つのかという問題が残る。そこで最後に、(3)そもそも知覚内容の担い手である知覚経験は時間的に延長したものとして個別化されるのかという問題を、知覚経験の時間的延長性を唱えるI. Phillipsの延長主義に焦点を合わせて検討した。その結果、ポストディクション効果の説明については、延長主義とそれを否定する立場の間に差がないことが示された。この結論は、概念主義の在り方を論じる際には、知覚経験という概念自体の更なる見直しが必要であることを意味している。 (1)に関する研究成果は、日本科学哲学会第46回大会で口頭発表した。(2)に関する研究成果は、京都現代哲学コロキアム第8回例会で口頭発表した後、イリノイ大学シカゴ校のD. Hilbert教授との研究打ち合わせを通じて推敲し、2014年5月に東京大学で口頭発表した。(3)に関する研究成果は『彦根論叢』に論文として掲載予定である。
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