研究課題/領域番号 |
24720015
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩田 圭一 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (00386509)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 存在論 / 実体論 / 本質 / 現実態 / 可能態 / 質料 / 形相 / 普遍 |
研究概要 |
本研究の目的は、アリストテレスの存在論における「本質」と「現実態」の哲学的意義を明らかすることにある。そのためには『形而上学』中核諸巻(ΖΗΘ巻)における実体論、その中でも「本質」と「現実態」が重要な役割を果たしている箇所を取り上げて考察する必要があるが、本年度は、本研究の基盤を形成することに重点を置き、これまでの研究成果の再検討と、これまでの自身の研究の体系的な整備を行った。 まず、「現実態」の哲学的意義を明らかにする上で不可欠の役割を果たす「可能態」の概念と、この「可能態」概念によって説明される「質料」概念について、これまでの研究成果を再検討し、アリストテレスの実体論を「質料」の問題を中心に据えて捉え直すという作業を行った。次に、アリストテレスの実体論に関するこれまでの研究成果のかなりの部分について再検討を行い、自身の実体論研究の体系的な整備を行った。再検討の対象として本年度取り上げた内容は以下のとおりである。『カテゴリー論』第1-5章における実体と属性の問題、『形而上学』Δ巻およびΖ巻第1章における実体と付帯性の問題、『形而上学』Ζ巻第4-6章の本質論における個物と本質の独特な関係、『自然学』第1巻における生成論と「質料」概念の導入、『自然学』第3巻第1章における可能的にあるものとしての質料のあり方、『形而上学』Ζ巻第10-11章の定義論における「質料」の問題、Ζ巻第17章の原因論における質料と形相のあり方、Η巻第2-3章における差異ないし現実態としての形相のあり方、Ζ巻第13-16章における「普遍」の問題、およびそこから読み取れる個別的な形相と普遍的な形相との関係について、本年度、再検討を行い、解釈の修正を行いながら体系的な整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の計画では、『魂論』第3巻第4-6章における「思惟」についての論述を取り上げ、「思惟」と「感覚」との比較、能力としての思惟とその発揮、思惟と思惟対象との対応などについて論じる予定であった。しかし、「アリストテレスの実体論における「質料」の問題」と題する発表を行ったことをきっかけとして、これまでの研究成果を一書にまとめる決心がつき、当初の計画を変更して、これまでの研究成果の再検討、自身の研究の体系的な整備を行うことを本年度の研究計画とすることにした。 公刊を目指している著書の仮題は「アリストテレスの〈実体〉探究――『形而上学』ΖΗΘ巻における実体論の展開――」である。3部構成、全14章を予定しており、本年度の研究によって、第9章にあたる内容まで再検討と体系的整備が完了した。 研究計画の変更はあったが、著書の公刊は本研究が最終的に目指していることであり、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本年度は研究計画を変更し、本研究の最終目的である著書の公刊のための作業を中心に行った。引き続きこの作業を行い、公刊を目指すが、本研究の申請時の計画である、アリストテレスの存在論と認識論の関係を明らかにすることも同時に目指すことにしたい。アリストテレスの実体論の研究において、『形而上学』中核諸巻の末尾(Θ巻第10 章)で示される思惟対象としての「本質」ないし「現実態」に注意が向けられることはあまりないが、本研究では、実体論の末尾で認識論や真理論の観点からの問題が取り上げられることの意味について、思惟や感覚に関する『魂論』の論述を踏まえて考察することにしたい。したがって、著書の公刊を目指す作業と同時に、さしあたり『魂論』における認識論がどのような学説であるかをテクストに即して明らかにすることが必要になる。認識論についての一定の理解を得た上で、存在論と認識論との関係を明らかにするという課題に向かうことにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も、本年度と同様、主として、本研究の遂行のために必要となる研究書、学術雑誌の購入のために研究費を使用する。本研究に関係する発表・シンポジウム等が行われる学会ないし研究会が開催される場合、それに参加し、他の研究者との意見交換をするために、旅費として使用することも考えられる。
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