研究課題
若手研究(B)
20世紀論理学は「文(記号)表現」に基づく「数学における演繹推論」を対象として発展してきた。しかし実際にわれわれが日常的に行う推論においては、図形表現が用いられたり、また演繹推論に限らないさまざまな論法が用いられたりする。図形推論は、動的な図形操作と静的な読取りの組み合わせで成り立っており、また日常的推論は一般に非単調性をもつ。伝統的な論理学ではこれらの特徴を捉えるのは困難であるのに対して、線形論理や部分構造論理はこれらの特徴を捉えるのに適していると考えられる。本研究では線形論理および部分構造論理を用いて、図形を用いた推論および非単調・非演繹的日常推論の数理モデルを構築することを目指し、本年度は以下の研究を行った。1.Defeasible inheritance reasoningは、非単調な日常的推論の一形式であり、新たに得られた知識によって以前からあった知識が棄却されるような推論である。本年度は、線形論理の豊かな表現力を活用して、defeasible inheritance reasoningが線形論理の部分体系として形式化できることを示し、線形論理のproof netがdefeasible inheritance reasoningの自然なグラフ表現を与えることを示した。研究成果は国際ワークショップNMR 2012にて発表した。2.研究代表者がこれまでに行ってきたオイラー図推論の分析を拡張して、本年度はとくにヴェン図を用いた推論を分析し、ヴェン図推論が導出計算システムによって自然に特徴付けられることを示した。さらに、これまでの成果と併せて、言語的推論、オイラー図推論、ヴェン図推論の間の比較研究を行った。研究成果は国際学会Diagrams 2012にて発表した。
3: やや遅れている
本年度は教育に対するエフォートが予定外に大幅に増したため、図形推論研究、日常的推論研究ともに当初の研究計画を完全に遂行するまでには至らず、また多少の修正を施さざるを得なかった。図形推論研究については、当初の予定では、これまでに形式化してきたオイラー図推論システムの計算量分析を行う予定であった。しかし、本年度はこの予定を変更して、来年度以降に行う予定であった研究の一部を先に行った。とくにこれまでに得られていたオイラー図推論の分析をヴェン図を用いた推論に拡張した。また日常的推論については、defeasible inheritance reasoningを線形論理に基づいて形式化して計算量分析を行う予定であった。しかし、defeasible inheritance reasoningを線形論理の部分体系として形式化することには成功したが、計算量分析までは行うことができなかった。これは来年度以降の課題とする。
今後はまず、これまでに得られたオイラー図・ヴェン図推論の分析手法をグラフや表などの種々の図形表現を用いた推論の分析へと拡張する。またそれら種々の図形推論の計算量分析を行い比較する。またそれと並行してオイラー図の動的な書換え操作と静的な読取りの二重構造を統一的に形式化し特徴づけるメタ理論を構築するために、Barwise (1995)の情報論理を分析する。Barwiseの情報論理では、情報に対する操作と情報のもつ意味内容が区別され、それらを同一の論理体系内で扱う方法論が提案されている。とくに、その論理体系は線形論理との類似性が指摘されており、本研究にもっとも適した枠組みであると考えられる。さらに、オイラー図やヴェン図およびグラフ表現と言語表現を組み合わせたHeterogeneous Logicを構築するために、BarwiseのHyperproofを拡張する。また、Hyperproofの理論基盤である状況意味論やチャンネル理論を線形論理の枠組みで分析し、heterogeneous reasoningを線形論理に基づいて形式化して証明論的な分析を行う。非単調的日常的推論の分析については、初年度の成果をより一般の推論へと拡張するために、Default Logicを線形論理によって形式化し、その計算量分析を行う。とくに線形論理の計算量分析を応用して、表現力と現実的計算可能性を保ったままDefault Logicを線形論理に基づいて改良・発展させる。
該当なし
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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http://abelard.flet.keio.ac.jp/person/takemura/