20世紀論理学は「文(記号)表現」に基づく「数学における演繹推論」を対象として発展してきた。しかし実際にわれわれが日常的に行う推論においては、図形表現が用いられたり、また演繹推論に限らないさまざまな論法が用いられたりする。本研究では、図形を用いた推論および非単調・非演繹的日常推論の数理モデルを構築することを目指し、本年度は以下の研究を行った。 前年度の結果に基づいて、オイラー図の教育への応用を試みた。とくに、オイラー図が証明のみならず、反証も同時に構成できることを利用して、証明概念および反証概念の習得のために、論理学の授業においてオイラー図を応用した。また、それをTools for Teaching Logic 国際学会(TTL2015)において提案した(研究業績[1])。 また、本研究で開発してきたオイラー図・ヴェン図システム、対応表システムを、論理学・数学教育に応用するために、eラーニングコンテンツを含めた教材開発に着手した(研究業績[2、3])。 これまでに行ってきた演繹的推論の分析を拡張し、非演繹的日常的推論の具体例として、経済学におけるグラフを用いたヘテロジニアス推論の分析に着手した。経済学では、予想外の市場の変化に直面したときに、需要・供給曲線のグラフを描いて市場均衡の変化を分析し、もっとも的確にその現象を捉える説明や仮説を探求し、既存の理論を拡張・更新していく。このような推論の特徴は、文と図形(グラフ)を組み合わせた推論であり、また演繹のみならず、非演繹的推論が行われる、ことである。とくに、上記のような推論で用いられる非演繹的推論は、説明のための推論や、仮説推論などと呼ばれるアブダクションである。本研究では、経済学におけるグラフを用いたアブダクションの分析を開始した。
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