研究課題/領域番号 |
24720023
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菊谷 竜太 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (50526671)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インド密教 / 曼荼羅儀軌 / 成就法 / ジュニャーナパーダ / ディーパンカラバドラ / アバヤーカラグプタ / 『四百五十頌』 / 『ヴァジュラーヴァリー』 |
研究概要 |
インド密教における観想法(成就法)と曼荼羅儀軌との関連性についてインド・チベット密教典籍の解析を中心に研究を進めている。初年度に当たる2012年度は,研究の基盤となる資料の収集と解析作業を中心に行った。研究の中核となる文献は,ジュニャーナパーダ流に所属する曼荼羅儀軌『四百五十頌』ならびにヴィタパーダ・ラトナーカラシャーンティ両注と,アバヤーカラグプタによる大部の曼荼羅儀軌『ヴァジュラーヴァリー』および曼荼羅観想法『ニシュパンナヨーガーヴァリー』である。これらの文献について,国内外の研究機関に照会し,対象文献と共にそれらに関連するサンスクリット写本・チベット資料について,可能な限りの蒐集を行った。さらにこの作業と平行して,これらの曼荼羅儀礼が実際にどのように執行されたのか,ネパールおよび清朝期の中国・日本国内の資料蒐集も積極的に行った。 インド密教の伝統,なかでも後期密教の儀礼の実際については,インドの伝統が途絶えた現状では,チベットの伝統を解析することによって多くの研究が積み重ねられてきた。しかしながら,地域・時代共にチベット文化圏の領域は広範囲に渡っており,未だ未開拓の領域も少なくない。なかでも,清朝末期にパンチェン・ラマ達によって執行された複数の大規模な灌頂儀礼に真言宗の僧達も関わっており,国内外の密教研究にも大きな影響を与えたことについては,充分に検討されていないように思われる。灌頂儀礼と曼荼羅の観想法に関わる清朝期の儀礼の多くは『ヴァジュラーヴァリー』・『ニシュパンナヨーガーヴァリー』と内容的に密接な関係をもっていたと思われ,『蒙古喇嘛教史』の記述からもその伝統は裏付けることが出来る。 以上の研究成果の一部は,昨年における国際シンポジウム「チベット美術の過去・現在・未来」(於金沢大学・8月)ならびにヴィクラマシーラ国際研究会(於東京大学・9月)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インド密教における観想法(成就法)と曼荼羅儀軌との関連性について密教典籍の蒐集・解析作業を中心に研究を進めている。 研究の中心となる文献は,ジュニャーナパーダ流に所属する曼荼羅儀軌『四百五十頌』ならびにヴィタパーダ・ラトナーカラシャーンティ両注と,アバヤーカラグプタによる大部の曼荼羅儀軌『ヴァジュラーヴァリー』および曼荼羅観想法『ニシュパンナヨーガーヴァリー』であるが,国内外の研究機関に照会し,関連する諸資料については,可能な限りの蒐集を行うことが出来た。さらに,これらの資料の収集過程において清朝終末期に北京をはじめ各地でパンチェン・ラマ達によって執行された複数の大規模な灌頂儀礼に真言宗の僧達が関わったこと,国内の密教研究に大きな影響を与えたことをも知ることとなった。したがって,当時の儀礼の実際を知るためにも,予定の作業に加えてこれらの資料を積極的に蒐集している。 以上の研究過程において,過去に外務省調査部によって発行された『蒙古喇嘛教史』が実際には蒙満における『ヴァジュラーヴァリー』などの曼荼羅儀軌の相承に大きく関わる典籍であることがわかり,この点について国際シンポジウム「チベット美術の過去・現在・未来」(於金沢大学・8月)で発表した。また『四百五十頌』をめぐるジュニャーナパーダ流継承者達の思想については,ヴィクラマシーラ国際研究会(於東京大学・9月)において報告した。これらの内容については,現在論文に纏めている途中である。 『四百五十頌』の解析作業であるが,2012年度は「プールヴァセーヴァー」に説かれた曼荼羅観想法がジュニャーナパーダの著作とどのような関わりがあるのか,同派に属する継承者の典籍をも含め,観想法の内容について積極的に解析作業を行った。特に,アバヤーカラグプタの『ニシュパンナヨーガーヴァリー』と『アームナーヤマンジャリー』の記述に注目し解析作業を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
インド密教における観想法と曼荼羅儀軌について,前年度の成果を踏まえ,2014年度は『四百五十頌』における「ブーミパリショーダナ」・「ブーミパリグラハ」「カラシャアディヴァーサナ」・「デーヴァターアディヴァーサナ」というそれぞれの儀軌について,ヴィタパーダ・ラトナーカラシャーンティ両注と,『ヴァジュラーヴァリー』・『アームナーヤマンジャリー』両書を対照させつつ解析作業を進めていく予定である。 アバヤーカラグプタの『ヴァジュラーヴァリー』の儀礼の実際については,曼荼羅の観想法である『ニシュパンナヨーガーヴァリー』との関わりも含め,パンチェンラマ系統の伝統が最も主要な相承の一つとなっており,このことは,パンチェンラマの前生の一つにアバヤーカラグプタが数えられる所以にもなっている。また,ネパールにおいて編纂されたと考えられる『阿闍梨所作集成』もジュニャーナパーダ流ならびにアバヤーカラグプタと密接な関係をもっており,これらのチベット・ネパール資料も視野に入れた包括的な解析作業を進めていく予定である。 さらに,これらの作業と平行して,2013-2014年度にかけて北京ならびに熱河・承徳のフィールド調査を計画している。清朝期に造営されたこれらの建築群のいくつかには,内包する仏像群をも含めた立体的な曼荼羅空間が構築されており,複数の遺構が『ニシュパンナヨーガヴァリー』に基づいていることは既に指摘されている。その一方で,承徳・普楽寺のチャクラサンヴァラ立体曼荼羅の外殻・楼閣部が『ヴァジュラーヴァリー』に基づいていることは,従来ではまだ指摘されていないようであり,文献と写真以外に,実際に現地に赴き遺構を肉眼で調査する必要がある。 以上の作業を進めつつ,2014-2015年度にかけて全体の内容を纏め,出版出来る状態に整理する予定である。また,データベース化の作業も平行して行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
書籍の到着が遅れ,2012年度に執行予定であった¥20,020を2013年度に繰り越した。この書籍を含め,研究に必要なさらなる資料の収集を行うために,資料購入を含めた物品費ならびに,資料を収集するための旅費を計上した。また,国内外を含め,研究成果を発表するための旅費を計上した。データベース化にあたって,データ入力補助と英文校閲のための謝金を加えて計上している。
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