申請者は重要性が指摘されながらもこれまで研究を停滞させてきた一次資料の不備を補うべくインド密教において最も長い伝統を保持し続けた『秘密集会』ジュニャーナパーダ流の原典研究を採択課題「インド密教における観想法と曼荼羅儀礼の包括的研究」として進めてきた。本研究は、申請者の過去の校訂・訳注研究に基づきながらも、新たに見出された『ローカアーローカカーリカー』のサンスクリット原典写本を使用し、一般に「曼荼羅儀軌(mandalavidhi)」と呼ばれる儀礼集成文献の解読・校訂・訳注作業を通じて、インド密教におけるさらなる研究基盤の獲得を推進するものである。 同書は、特定の聖典・流派を越えて受容され他の建築儀礼書にも多大なる影響を与えた。申請者はNGMCP(Nepalese-German Manuscript Cataloguing Project)を最大限に活用することによって『ローカアーローカカーリカー』ほぼ全体の校訂・訳注作業を完了し、現在は儀礼内容・語彙解析と事項索引の作業に取り掛かると共に内容を取り纏め、出版の準備を進めている。内容の一部については、タントラ国際会議(カルフォルニア大学バークレー校・2014年)をはじめとする国内外のシンポジウム・学術大会で発表する機会を得た。また、上記の研究によって得られた情報の一部を生かし、バウッダコーシャ(東京大学)・ヴィクラマシーラ(三重大学)・ITLR(ハンブルグ)三つのプロジェクトと連携し、密教の術語集成を構築する作業を進めており、本研究成果の多くがウェブ上で公開予定である。
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