研究課題/領域番号 |
24720024
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩崎 陽一 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (40616546)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 写本研究 / 文献研究 / インド論理学 / 国際研究者交流(インド) |
研究概要 |
本申請課題の研究は、これまで歴史的文脈から切り離されて論じられることの多かったインド新論理学派後期(ラグナータ以降)の言語理論を、その成立に先立つ文献を研究することにより、思想史研究の視野のもとで再解釈することを目的とする。そのための資料整備として、新論理学派の基礎文献『真理の如意珠』に対する(1)未刊行の『ジャヤデーヴァ註』のテキストを複数の写本を用いて校訂し、また(2)真贋が未確定の『ラグナータ註』の写本を、その真贋も含めて調査、解読する。最終的に、これらの資料に基づき、新論理学派の言語理論の性質変容を、文献実証的に分析する。初年度は、まず、写本の内容を電子化するための技術的方針を検討し、人文学でひろく用いられている「TEI XML」を拡張する独自のXMLスキーマとXSLTスタイルシートを作成した。その技術基盤の上で、当初計画に従い、(1)『ジャヤデーヴァ註』の写本校訂と(2)『ラグナータ註』のベンガル文字写本解読を前進させた。前者については複註写本をテスティモニアとして用いつつ、「言葉の信頼性」章の註釈テキストのXML化を行った。後者については、インドに赴いてディープロ・チャックラボルティ氏(ネルー大学)を始めとするベンガル人研究者らの助力を得、ティルフタ文字の影響が強い古いベンガル文字を解読する能力を習得した。これにより日本国内でも研究が進められるようになり、対象写本の約半分を解読、電子化できた。また、インド訪問時に併せて写本調査を行い、次年度の研究で重要な役割を果たす写本をいくつか複写できたほか、これまで『ラグナータ註』の実在を裏付ける重要証拠とされていたバラナシ写本が、実は異なるテキストの写本であることを確認した。成果の一部は、25年9月の日本印度学仏教学会学術大会で報告する予定である。初年度は、主に思想史研究の観点からの研究発表を3件(国内2、海外1)行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的に研究申請書に記載したプランに基づいて研究を遂行している。以下に記載する事項は予定とは異なる事態となったが、いずれも可能性を想定していたものであり、対処可能なものであった。(1)人文学研究で一般的なXMLスキーマであるTEIでは、研究の遂行に不十分:従って、独自の拡張スキーマとその変換プログラムを作成した。(2)『ジャヤデーヴァ註』複註文献からのテスティモニア抽出に見積以上の時間が掛かる:複註の電子化を諦め、写本コピーのまま読解することにした。電子化すれば将来的に利用価値が生まれるが、初年度は計画の達成を最優先し、電子化は見送った。(3)ベンガル文字写本の解読の指導を依頼した現地研究者が、当該写本の文字を読めない:現地研究者の口コミにもとづき、当該写本を読める研究者に辿り着いて、目的は達成できた。 『ジャヤデーヴァ註』のXML化は、初年度は当初計画の約半分しか達成できなかったが、その分、『ラグナータ註』の解読を前倒しして大幅に進めることができ、トータルでの進捗に大きな影響はないと見ている。古いベンガル文字の習得のために『ラグナータ註』解読を進めることが有効であったためにこのような結果となったのであり、計画通りに『ジャヤデーヴァ註』を中心的に研究するよりも大きな成果を上げられたと考えている。第2年度に『ジャヤデーヴァ註』研究に時間を割くことにより、年度末までには進捗を当初計画に合わせるつもりである。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画を大幅に見直すべき事態には至っていないので、引き続き、研究計画どおり、(1)『ジャヤデーヴァ註』の校訂と(2)『ラグナータ註』の解読を進めていく。前項で述べたとおり、初年度において(2)の研究を前倒しで実施したため、第2年度では(1)の作業に比重を置き、年度末までに全体の進行状況を調整する。インドでの写本調査に関しても、第2年度に予定していたバラナシ図書館の訪問を運良く初年度に実行でき、さらに複写できないと言われていた写本の複写を入手できたが、一方で複写の取得を見込んでいたボンベイの写本は初年度に閲覧すら認められなかった。ボンベイの図書館はテロを始めとする社会情勢により開放度が大きく変化し、昨今の情勢を鑑みると今後ますます厳しくなると思われるが、情報収集に努めて研究期間内のアクセスを試みる。また、第2年度には、研究計画にあるウェブサイトの設置と校訂写本の電子媒体での随時公開とを実現する。これについては、申請者が25年度より参画したプロジェクト「人文学研究資料にとってのWebの可能性を再探する」(京大人文学研究所、代表:永崎研宣氏)での研究成果を踏まえ、また公開方法の汎用的フレームワーク作成を視野に入れつつ、試行錯誤していくことになると想定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|