研究課題/領域番号 |
24720024
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩崎 陽一 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (40616546)
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キーワード | インド哲学 / 論理学 / 言語哲学 / 写本研究 / 文献研究 |
研究概要 |
本申請課題の研究は、これまで歴史的文脈から切り離されて論じられることの多かったインド新論理学派後期(ラグナータ以降)の言語理論を、その成立に先立つ文献を研究することにより、思想史研究の視野のもとで再解釈することを目的とする。そのための資料整備として、新論理学派の基礎文献『真理の如意珠』に対する(1)未刊行の『ジャヤデーヴァ註』のテキストを複数の写本を用いて校訂し、また(2)真贋が未確定の『ラグナータ註』の写本を、その真贋も含めて調査、解読する。 第2年次は、当初計画に基づき、まず上記(2)と関連した、『ラグナータ註』のカルカッタ写本の解読を進めた。その結果、本物である可能性が高いと期待していたカルカッタ写本が、実はタイトル違いであったことが判明した。バラナシ写本もタイトル違いであることは昨年度確認したので、現状、『ラグナータ註』とみられる写本はなくなってしまった。残る可能性として、19世紀のカタログに載っている、南インドの個人所有の写本を調べてみる価値がある。これに関してケーララ大学図書館を訪問し、所蔵状況を調査した。 上掲(1)の『ジャヤデーヴァ註』については、計画通り校訂作業に着手することができた。いまだ中途成果を公開するところまで進めていないが、最終年度の途中で公開することを目指している。写本の解読が進むにつれ、当初の想定どおり、『ジャヤデーヴァ註』を通して初期新論理学派の重要な思想史転換が見えてきた。一例として、「文の構文的正しさ」に関する古い理論を読み解き、日本印度学佛教学会学術大会で発表した。その他、本研究により得られた哲学的知見を広く還元するため、比較哲学関係のワークショップや国際学会でも発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的に研究申請書に記載したプランに基づいて研究を遂行しており、進捗に大きな遅れはない。『ラグナータ註』と考えていた写本が偽物であると判明したことも、想定の範囲内ではある。ただし、当初は真贋判定にもっと時間が掛かるものと考えており、第3年次にも作業を計画していたが、未出版の他の註釈に同定できたため、偽物であるとの判定が第2年次で完了してしまった。3年次はその代わり、次項で述べるように、他の写本の入手と『ガダーダラ註』の写本の解読を試みる。 本研究の大きな課題である『ジャヤデーヴァ註』のウェブ公開についても、準備が進行している。第2年次は京都で行われた人文情報学の学会に参加して、既に校訂テキストのXML化について実績のある苫米地等流博士と討議し、本研究の公開方法について指針を得ることができた。テキスト校訂作業については、現在全体の4分の1ほどが或る程度まとまった形になってきている。このまま進行すれば、研究期間内に予定した成果にまとめられる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
解読対象としていた『ラグナータ註』が、計画より早く贋作と判明してしまったので、これの解読にこれ以上関わる必要がなくなった。そのため、新たに閲覧できる可能性が浮上した、南インド個人所蔵写本の入手を試みる。また、より後代の未出版の写本『ガダーダラ註』が『ラグナータ註』と勘違いされていたという想定が立てられるので、『ガダーダラ註』の解読と真贋判定に着手したい。ただし、これらの作業は「ラグナータ註である可能性のある写本を調査する」という本研究の目的には合致するが、当初計画には具体的に含まれていないため、まずは計画のもうひとつの柱である『ジャヤデーヴァ註』の校訂と公開のための作業を前進させる。 校訂テキストの電子公開については、その方法の有効性を研究者コミュニティに問うていく必要がある。折しも、第2年次に行われた日本印度学佛教学会のパネル発表において、電子公開された研究成果の信憑性について問題が提起された。これらの問題を踏まえて、電子公開という方法の妥当性を検討するため、第3年次の最中に人文情報学の研究会で発表と議論を行いたいと考えている。そのため、第3年次上期のうちに、部分的にも電子公開を実現する。 文献研究については、発表すべきいくつかの発見が得られており、26年度の日本印度学佛教学会学術大会で発表を予定しているほか、27年1月の全インド東洋学会議でも発表したいと考えている(いまだ開催概要が公表されていない)。研究期間内になるべく多くの機会をみつけて成果を公表するつもりであるが、一部は27年度開催の学会で発表することになるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
インド調査時、現地で購入した資料やコピー代金について領収書が出ないものが20,000ルピー(35,000円)ほどあったため、私費にて対応した。また、謝金にて作業を依頼する予定であった学生が多忙のため受託できず、独力にて対応した。 差額23,689円は、最終年度の成果取りまとめ時に、あらためて謝金支出として支出する計画である。
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