研究課題/領域番号 |
24720025
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
馬場 紀寿 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (40431829)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パーリ仏典 / 上座部大寺派 / 説一切有部 |
研究実績の概要 |
本研究は、初期仏典にかんする従来の研究方法にあった理論的矛盾を解決するために、これまで着目されなかった「伝承史」という方法で初期仏典の研究を行うものであり、〈律典とともに伝承された四ニカーヤ〉と〈韻文経典群〉という伝承系統が並存したという新たな視点からパーリ経典の様式(定型文や定式化された構成)を分析し、その成果を北伝資料(サンスクリット写本、ガンダーラ語写本、漢訳、チベット訳)と照らし合わせることによって、初期仏典の伝承過程を分析することを目指している。 以上のような趣旨にのっとって、パーリ仏典を調査し、〈律典とともに伝承された四ニカーヤ〉の様式と〈それとは別に伝承された韻文経典群〉の様式を解明して、それぞれの伝承系統の特徴を考察した。さらに、パーリ仏典の様式を北伝資料(サンスクリット写本、ガンダーラ語写本、漢訳・チベット訳)に照らし合わせ、北伝資料にも二種の様式が確認できるかどうかを調査した。全体の結論には至らなかったが、いくつかの研究成果が挙がるとともに、それに関連する、予期していなかった成果を挙げることができた。 その結果として、北伝の仏典(サンスクリット写本、漢訳、チベット訳)の中でも最も大量に残っている説一切有部の仏典と、上座部大寺派の仏典との間に、仏典観が大きく異なることを明らかにした。この内容にかんしては、英語の発表をした(17th Congress of the International Association of Buddhist Studies)。現在、英文の論文を執筆中である。また、パーリ仏典の伝播過程について、論文を発表した(『仏教文明の転回と表現――文字・言語・造形と思想』)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
パーリ仏典と北伝資料(サンスクリット写本、漢訳・チベット訳)の比較研究が進展したため、いくつかの発見があった。この調査結果として、平成26年度には、8月18日から23日までオーストリアのウィーン大学において、17th Congress of the International Association of Buddhist Studies (IABS)に参加し、SOAS講師のVincent Tournier博士がconvenerを務めるScriptural Formation and Authentication というパネルにおいて、 “Rethinking Canonicity of Theravada in the light of Sarvastivada scriptures”と題した発表を行った。 また、これに関連して、パーリ語の仏典がスリランカと東南アジア大陸部に伝播する過程を検討し、その調査結果を、新川登喜男編『仏教文明の転回と表現――文字・言語・造形と思想』(勉誠出版)において「パーリ仏典圏の形成――スリランカから東南アジアへ」と題した論文として発表した。 この他、ジョナサン・シルク教授(ライデン大学)には、東京大学東洋文化研究所にて講演していただき、パーリ仏典と北伝資料に関して議論を交わした。さらに、まだ出版の段階には至っていないが、本研究計画終了までに出版できる見込みが立っているので、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27度は、昨年度に引き続き、パーリ文献とそれに対応する北伝資料(サンスクリット写本、漢訳文献、チベット訳文献)の様式を比較研究する作業を続ける。 パーリ経典と北伝経典の対照表については、赤沼智善『漢巴四部四阿含互照録』(1929年)、律の対照表については佐藤密雄『原始仏教教団の研究』(pp.838-879, 1963年)があるが、両者ともにチベット文献をほとんど参照しておらず、しかも、近年、ガンダーラ語写本、サンスクリット写本の発見が著しく、また、初期漢訳仏典の研究も急速に進んでいるため、赤沼目録も佐藤の対照表も全面的に改訂されるべきである。本研究は、パーリ仏典と北伝資料の比較研究に当たって、パーリ仏典と北伝資料との対照表を可能な限り網羅的なものにする改訂作業を行う予定である。 この作業を進めるに当たって、パーリ仏典の伝承過程を明らかにする必要がある。そこで、南アジアで大きく広まった説一切有部や大乗仏教の仏典がサンスクリット語で伝承されたのに対し、スリランカの上座部大寺派においてパーリ語の三蔵がまとめられ、サンスクリット化されることなく、パーリ語で仏典を伝承し続けた教理的背景にかんする研究成果を5月に愛知学院大学で開かれるパーリ学仏教文化学会の学術大会で発表し、『パーリ学仏教文化学』で論文を発表する予定である。
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