本研究は、初期仏典にかんする従来の研究方法にあった理論的矛盾を解決するために、これまで着目されなかった「伝承史」という方法で初期仏典の研究を行うものであり、〈律典とともに伝承された四ニカーヤ〉と〈韻文経典群〉という伝承系統が並存したという新たな視点からパーリ経典の様式(定型文や定式化された構成)を分析し、その成果を北伝資料(サンスクリット写本、ガンダーラ語写本、漢訳、チベット訳)と照らし合わせることによって、初期仏典の伝承過程を分析することを目指して、パーリ仏典の形成過程を研究してきた。その結果、南アジア・東南アジアでサンスクリット語が普遍語としての地位を確立していた4世紀から13世紀、インド本土の仏典がサンスクリット化され、またサンスクリットで編纂されたのに対し、なぜスリランカの上座部大寺派が伝承した仏典はパーリ語で伝承されたのか、その理由の一つを解明し、その研究成果を論文、「上座部大寺派のパーリ語主義」(『パーリ学仏教文化学』,査読有,第29号,2015年12月)として発表した。
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