研究課題/領域番号 |
24720028
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
清水 洋平 大谷大学, 文学部, 非常勤講師 (50387974)
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キーワード | 貝葉写本 / 上座仏教 / 東南アジア仏教 / タイ写本 / データベース |
研究概要 |
本研究は、従前の科研プロジェクト「タイ国中部地域の王室寺院が所蔵する東南アジア撰述仏教説話写本の研究」を承け、その研究課題の中で作成した同地域の寺院が所蔵する貝葉写本の文献タイトルのみを記した所在目録を改善し、国内外の研究者、研究機関の要望に的確に答え得る新たな所在目録・データベースの構築を先ず行うため、本年度は、次の整理作業を実施した。 1. 初年度で整理された所在目録(個々の文献の写本資料としての資質を整理したもの)をベースにして、文献ごとに様々な既出の所在目録との横断的な整理を行った。 2. 初年度で整理された所在目録のその正確性を高めるために、写本調査を実施してきたバンコク所在のWat Ratchasittharam、Wat Arun、Wat Hong Rattanaram、並びにバンコク郊外バーンクンティアン区所在のWat Hua Krabeuの4ヶ寺を再訪し、所蔵されているパーリ語貝葉写本文献についての意見交換を各寺院の長老と行った。また、既に貝葉写本文献の所蔵リストが保持されているバンコク所在の第一級王室寺院Wat Phoにおいて、「タイ王室版」の一つとされる同寺院が所蔵する貝葉写本を参照しながら、初年度に整理した所在目録の中の一部の文献について、タイトル等の比定確認の作業を実施した。 3. これらの整理作業、比定確認の作業に加え、本年度は、7月にポルトガル:リスボンで開催された国際会議(The 7th European Association for South East Asian Studies (EUROSEAS) Conference)において、当該研究の現在までの研究成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
東南アジア撰述の仏典研究に取り組む国内外の研究者、研究機関から情報の提供について多くの要請を受けている。この要請に的確に答えるには、文献タイトルのみに止まったタイ国中部地域の王室寺院が所蔵する貝葉写本の所在目録ではなく、次の3つの事項が検討、反映された所在目録を完成させなければ役立たないことを実感している。(1)浮かび上がってきた個々の文献の写本資料としての資質を整理する必要がある。具体的には、同一タイトルの文献であってもその内容分量に異なりがあり、同一文献に複数のヴァージョンがある可能性がある。また、タイトルが様々に異なる同系統と思われる写本が多く存在する。これらについて、十分な仕分け整理を行う。(2)現在までの調査で収集してきた約4万枚近くのデジタル画像資料を整理し、所在目録に反映させる必要がある。(3)世に既出の所在目録との横断的な情報整理が必要である。 初年度は(1)の整理作業を実施した。本年度は(2)、(3)の整理作業に着手する計画であった。しかし、(2)の整理作業については、デジタル画像資料を保存している外付けハードディスクの突然の故障により、同作業の本年度の実施を断念しなければならなかった。よって、本年度は(3)の整理作業に止まった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で整理された所在目録については、その正確性を高めるために貝葉写本文献の現地での比定確認作業が必要である。この点については、先述したように、貝葉写本文献の所蔵リストが既に保持されている第一級王室寺院Wat Phoにおいて、同作業を本年度に実施し対応した。しかし同作業については、確認を必要とする写本文献の量が多いため、複数回実施しなければならない。今後も継続的にWat Phoにおいて同作業を実施して対応していく。尚、Wat Phoに所蔵されていない写本文献については、同じく貝葉写本文献の所蔵リストが保持されている第二級王室寺院Wat Hong Rattanaram等において比定確認作業を行い対応する。 上記(2)の整理作業については、デジタル画像化して収集したこれらの貴重な貝葉写本データを、肉眼での判読が最適になるように画像処理を施し、写本目録とデジタル画像をリンクさせたデータベースを構築する。 上記(1)、(2)、(3)が整理された新たな所在目録・データベースを構築する作業については、東南アジアの仏典写本のカタログ作成の第一人者であるJacqueline Filliozat女史(フランス極東学院名誉講師)から全面的な協力の申し出を受けている。同女史と緊密な連携を図ることで、完成を急ぎたい。その上で、「アーニサンサ」と呼ばれる一群の積徳行に関わる釈義文献について、関連資料の所在・残存状況、手持ち資料等を考慮しながら、「アーニサンサ」という名称が題名に付される典型としての写本文献を選択する作業に取り掛かり、「アーニサンサ」と呼ばれる一群の積徳行に関わる釈義文献の文献学的研究をスタートさせる。
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次年度の研究費の使用計画 |
「次年度使用額(B-A)」は472円であり、ほぼ計画通り使用できたと考えている。 (1)本研究は、フランスやタイ国の研究者、並びに寺院僧侶の協力を得て研究を進めている。そのため、タイ国での資料確認の調査に加えて、両国に渡航して各研究者との意見交換・研究会が必要である。(2)初年度で整理された所在目録について、その正確性を高めるために、貝葉写本文献の現地での比定確認作業がさらに必要である。(3)国内の先行研究者との意見交換・研究会を実施すると共に、当該研究の現時点までの研究成果を国内学会で発表する計画である。(4)所在目録に関するデータの整理や入力作業者への賃金、タイ語資料やクメール文字写本の読解に関する知識の提供、写本研究に関する先行研究者からの専門的知識の提供、並びに寺院僧侶、通訳への協力に対する謝金も必要である。
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