本研究は、タイ国を中心に従来より同地に継承されたクメール文字で記された貝葉写本を中心に、同国に流布する東南アジア独自撰述の仏教説話写本を調査・収集し、その網羅的な研究を目指すものである。具体的には、①従前の科研プロジェクト「タイ国中部地域の王室寺院が所蔵する東南アジア撰述仏教説話写本の研究」を承け、その研究課題の中で作成した同地域の寺院が所蔵する貝葉写本の文献タイトルのみを記した所在目録を改善し、国内外の研究者、研究機関の要望に的確に応え得る新たな所在目録・データベースの構築を行う。②次に、仏教説話文献をより深く探究する手段として、その鍵となる「アーニサンサ」と呼ばれる一群の積徳行に関わる釈義文献の基礎的な文献研究を行うという2つのアプローチを取る。 ①については、個々の文献の写本資料としての資質が整理され、文献ごとに様々な既出の所在目録との横断的な整理がなされた一次資料の所在目録及びデータベースを構築した。これは、東南アジア撰述仏典研究の基礎となるものである。 ②については、①で整理された所在目録をベースにして、「アーニサンサ」という名称が題名に付される典型としての写本文献を選択する作業に取り掛かった。そして、今まで未開拓であったタイ仏教の積徳行に関わる釈義文献の文献学的研究をスタートさせることができた。 これらの成果は、今後の東南アジア撰述仏典の研究進展に大きく寄与することが期待される。 最終年度には、①、②で得られた研究成果の一部を「タイ国中部地域の王室寺院が所蔵するクメール文字写本について」と題した論文に取りまとめ『佛教史學研究』第58巻第1号に公表した。また、東南アジア撰述仏典写本の中の稀覯本について、研究協力者である田辺和子博士と共に『アユタヤー期後期作製ワット・フアクラブー寺院所蔵の絵付折本紙写本』と題した書籍を出版した。
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