平成26年度は主に,「アルチャタとアカランカの関係」について,原典研究と思想研究という二つの側面から考察した。まず基礎作業として,アカランカの2つの著作(『論理の決定』及び『定立の決定』)に対する二つの注釈書から,アルチャタという名と共に引用あるいは紹介されるパッセージを網羅的に収集するという作業を行った。その上で,それらのパッセージを『論証因一滴論注』におけるアルチャタ自身の見解と比較・対照した。その結果,二つの著作注釈書においてアルチャタに帰せられている説は,少なくとも『論証因一滴論注』からのリテラルな引用ではなく,むしろ同書に説かれている内容の要約あるいは思想・見解の引用である可能性が高いことが明らかになった。 その他,平成26年8月末にドイツ・ハイデルベルクにて行われた第5回国際ダルマキールティ学会では,“On the meaning of bahyartha in Dignaga’s and Jinendrabuddhi’s theories of inference”というタイトルで口頭発表を行った。本発表では,主に仏教論理学における遍充論を扱ったが,一部において,外遍充論との関係においてジャイナ教論理学者の見解についても言及した。また,共同研究プロジェクト「インド哲学諸派の<存在>をめぐる議論の解明」(ダルシャナ科研)の一環として平成26年9月に開催された合同研究会おいては,「仏教における存在と時間:三世実有論を再考する」というタイトルで口頭発表を行った。こちらは,シャーンタラクシタとその弟子カマラシーラによる『真理綱要(注)』「三時の考察」章に説かれる内容に沿って,仏教の存在論・時間論を考察するという内容であったが,発表の後半部において,説一切有部の三世実有論とジャイナ教徒をはじめとするインド哲学諸派の主張する存在論の関係性についても論じた。
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