本研究の目的は、釈迦の誕生から涅槃までの「今生の全生涯」を「時系列」に沿って記述する数少ない仏伝である『ブッダチャリタ』(仏教詩人アシュヴァゴーシャ作)及びこのような特徴を有する仏伝について検討し、その成立について考察を加えることにあった。 実施内容の詳細としては、まず、成立地域と年代とが比較的明らかである『ブッダチャリタ』を中心に、これとほぼ同内容の漢訳『仏所行讃』、ガンダーラ地域の成立とされる『僧伽羅刹所集経』、中国撰述が指摘される『仏本行経』を視野にいれて、釈迦の一代記を示す仏伝についてその構造等を分析した。 次に、「一代記」的仏伝を描く文献の成立と緊密な関係を有すると考えられるガンダーラ美術における仏伝図との比較研究を、美術史研究者(上枝いづみ:花園大学非常勤講師)等との情報交換を行いつつ実施した。仏伝図のいずれの部分が文献資料上に見られる内容と合致しているか、あるいは、いずれの文献資料にも確認できない作例などが存在するか、などを明確にしていくことで、当時の西北インドにおける仏伝表現活動の実態を探った。 以上の検討の成果は、「仏伝文献とガンダーラ美術」『龍谷政策学論集』(第3巻第1号、pp. 43-53、2013年12月20日発行)及び「舎利弗の外道調伏譚に関する試論」『仏教学研究』(第70号、pp. 55-77、2014年3月10日発行)において公表済みである。
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