最終年度においては、朝鮮戦争下での文化運動の経験が、1960年代半ばからのベトナム反戦運動の思想的・人的結集の前提となったことを、資料の発掘や多くの当事者からの聞き取りにより跡づけた論文「朝鮮戦争・ベトナム戦争と文化/政治―戦後神戸の運動経験に即して」を『同時代史研究』第7号に発表した。さらに、朝鮮戦争下での文化運動を担った人びとの多くが、1930年代の神戸で反ファシズム人民戦線運動を担っていたことに着目し、社会思想史学会第39回大会で「人民戦線運動の経験とその戦後への遺産―文化運動を中心に」と題する報告を行った。本報告を取りかかりとして、「抵抗」と「転向」の二項対立を超えた、社会運動史研究の貫戦史的把握を試みていきたいと考えている。 また、戦後神戸の文化運動の中枢にあった詩人・直原弘道氏より研究代表者が譲り受けた、敗戦から1950年代末までの神戸で出された貴重なサークル詩誌の数々を、2015年4月24日より開催中の神戸文学館での特別展示「神戸・サークル誌の時代」で展示している。本展示は、地域の運動経験の発掘としてメディアの関心を集め、『神戸新聞』でも埋もれたサークル詩誌の提供を呼びかけている(2015年4月25日付朝刊)。展示期間中に開催予定のシンポジウム「海港都市神戸のサークル誌―人・街・文学」では、戦後神戸のヤミ市形成に詳しい村上しほり氏(人とと防災未来センター)とともに、敗戦から朝鮮戦争を経て高度成長にさしかかるまでの神戸の街の変容を踏まえて、サークル誌に残された無名の労働者の表現がもつ意味をさぐっていく。
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