研究課題/領域番号 |
24720037
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
松本 郁代 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 准教授 (60449535)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 天皇 / 即位灌頂 / 王権 / 仏教 / 密教 |
研究概要 |
本研究は、中世日本の天皇を社会秩序や文化形成を規定する思想的存在として捉え、中でもその宗教的特性を考察するものである。具体的には、中世日本において作られた仏教的世界観を意味・形式ごとに分類し、これらを当時の世界認識として捉え、その世界観に規定された「天皇」の存在意義を社会的に読み解くことを目的とする。特に、天皇即位式における即位灌頂に代表される「天皇」の理念世界は、天皇の社会的役割を作り出してゆく思想的方法としても機能し、かかる思想的存在としての「天皇」は、社会的身分としての職能民や芸能民の存在意義を保証するものとしても存在したと考えられる。本研究では、以上の視点を踏まえ、天皇を捉えた仏教的世界観の思想から、中世における社会秩序や文化形成の規範を考察し、中世日本における宗教思想の特質を提示するものである。 本年度は、即位灌頂が天皇即位式のみならず、和歌伝授(古今伝授)の場(和歌灌頂)でも即位灌頂の口伝が伝授されていた点を王権との関わりで論じた。和歌灌頂における即位灌頂は儀礼としてではなく、理念的存在として和歌に関する秘伝の一つとして相伝されていたものである。しかし、何故和歌灌頂の場に即位灌頂という天皇即位が関係するのか、という点に関する考察の一つとして、皇位継承の仏教的世界観が和歌相伝の系譜を継承する理念をもち、また、時代や次元は異なるが、王権と和歌との関わりが背後に関わる点も指摘した。 更に、天皇が宗教的身体性を有す観点から、中世における天皇が仏教的世界観と密教的世界観に位置づけられていた点を明らかにした。前者が須弥山世界の統率者でもある金輪聖王、後者が大日如来として天皇の身体が各世界観に位置づけらている点を論じ、天皇が位置づけられた仏教的世界観の背後に構築された「国家」と仏教界における王権の意味の違いについて考察し、かかる規範に入らない人々の存在を指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、中世における天皇を解釈した(捉えた)仏教的世界観に基づく宗教思想から、逆に、中世における社会秩序や文化形成の規範を考察し、中世日本における宗教思想の特質を提示することを最終的な目的としている。 これらの目的を踏まえ、昨年度論じた考察は、まず仏教界における天皇の世界観を二通りに分類し、それぞれの世界観の違いを説明した点である。これは仏教界が理念的に作り上げた国家像であり、また密教が王権を取り込む手法として理解される。また一方で仏教界を離れた仏教的理念による天皇が文化的・思想的に広がってゆく。それらはどちらかというと「荒唐無稽」な言説や世界観であるとして王権や権威の修辞的問題として取り上げられる傾向にあった。しかし、本研究では、それは仏教界が戦略的に作った世界観でありイデオロギーとしても機能した以上に、それによって作り上げられた具体的な文化や社会秩序に影響していたのではないかという点までを導いたものである。 以上のような観点から、目的に対し、研究の方向性を明示するものとして捉えても良いと思われるため。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は、特に「聖なるもの」との関わりについて論じていきたい。なぜなら、天皇の特異性(権威的・権力的という他に対する超越性)とともに浮上する問題が、そうでない者たち(王にまつろわぬ人々、周縁)の問題である。それは社会身分としての天皇と非人の問題につながる。しかし、かかる社会的コードとしての身分は、宗教思想の本質を作るものではなく、宗教思想が身分の差を作る基盤になっていると考えられる。よって、天皇の社会的問題とは社会的コードとしての天皇とその対照である非人とを結びつける思想の考察が必要となる。そこで取り上げたいのが「聖なるもの」の意味である。聖なるものの解釈については、中世の歴史・文学双方からの研究蓄積があるが、これらは中世という時代的パラダイムにおける問題であり、それ自体は重要であるが、一度時代相対化させる必要があると考えられる。「聖なるもの」を宗教学として捉えた場合の意味、そして中世日本における特殊な聖なるものの意味を捉え、さらに、前年度に考察した天皇の宗教的身体がどのように関わっていたのか考察したい。 特に中世の歴史叙述書である『愚管抄』を歴代天皇を叙述した作品とし、天皇を時代に相対化する一つの視点としてとらえ、そこから中心と周縁、正統性と非正統性の問題、そこから派生する聖なるものの意味について追究したい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|