研究課題/領域番号 |
24720038
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
御園 敬介 福岡女子大学, 文理学部, 准教授 (60586171)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 信仰分析 / 聖体会 / ジャンセニスム |
研究概要 |
本研究のねらいは、近世フランスにおける「信」をめぐる思想の様々な動態を追跡することを通して、当時のヨーロッパにおける知の在り方を総合的に明らかにすることにある。その第一歩として、計画の初年度にあたる平成24年度の研究は、17世紀中頃までの信のふたつの様態を歴史的・文献学的な観点から検討するかたちで進められた。第一に、中世以来のスコラ学を背景とした認識様態としての「信」があるが、これは、16世紀後半に始まった「信仰分析analysis fidei」の試みに注目することで、その輪郭を描くことが可能となった。「信じること」の理論的構造を検証しようとする「分析」に乗り出したスアレス、モリナ、ベカヌス、グラナドらの一次文献が理論的考察の対象となったが、これらの忘れられたテキスト群は、信じる対象に寄せる信仰者の同意の性質をめぐる議論を包括する一連のコーパスとして注目に値する。第二に、神の超自然的な恩寵の産物である対神徳としての信仰があるが、その目に見える実践は、カトリック改革運動である。その中でもとりわけ、大規模な組織網をつくりあげ熱心な活動を展開した「聖体会Compagnie du Saint-Sacrement」の動向に焦点を絞って検討をおこなった。それにより、聖体崇敬を軸としつつ実に多様な信仰行為を実行に移したこの結社は、信仰を徳と考える立場を極めて明瞭に示す好例として捉え返された。それは同時に、信仰の実践が時代の為政者とのあいだに軋轢を生み出す論理構造がいかなるものであったのかを解明するうえで興味深い題材でもあり、具体的な宗教事象(とくにジャンセニスム)の理解の更新に大きく貢献するであろうことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
認識論の系譜の中に信仰を置き直す作業では、ラテン語一次文献の読解に時間をとられたとはいえ、次年度に17世紀の宗教論争をより具体的に取り上げる際の理論的背景は確保することができた。信仰を徳とみなす立場の検討については、聖体会をめぐる先行研究の整理と関連一次史料の収集・読解を終えた上に、「ジャンセニスムと政治」という大きなテーマとの深い関連も明らかになったため、予想以上に進展したと言える。以上を踏まえるなら、本年度の研究は、論文による成果公表にまでは至らなかったものの、おおむね順調に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
信仰をめぐる哲学的思索については、引き続き近世初期のトマス神学註解者たちの著作を検討する必要があるが、それと並行して、17世紀フランスのジャンセニスム問題が提示した信仰をめぐる闘争を理論と歴史の両面から追跡する段階へと研究を進める。とりわけ、そこに見られる論争家たちの理論と、先立つ信仰分析の著述家たちの理論との相関関係に注目することになるだろう。また、聖体会の信仰実践の分析を通して得られた本年度の知見を活かし、ジャンセニスムの政治的抑圧の要因を新たに解釈する作業も行う予定である。そのためには、本年度に引き続き、夏季に渡仏し、国立図書館やマザリーヌ図書館をはじめとした関係機関における一次史料の精査を行うことが必要になる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の所要額と実質支出額の差額は555円であり、当初の研究年次計画に沿った研究費の使用に特段の影響を与えるものではない。
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