研究課題/領域番号 |
24720038
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
御園 敬介 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (60586171)
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キーワード | ジャンセニスム / 信仰分析 / 聖体会 |
研究概要 |
本研究のねらいは、近世フランスにおける「信(信仰)」をめぐる思想とその表現の様々な動態を追跡することを通して、当時のヨーロッパにおける知の在り方を新たな角度から捉え直そうとすることにある。3年計画の2年度目にあたる平成25年度の研究は、16世紀後半から17世紀前半にかけての信仰をめぐる多様な思索の存在を考察した平成24年度の研究を踏まえて、17世紀半ばのジャンセニスム論争における信仰の認識論的問題を検討するものであった。それにより、ジャンセニスム論争が、信仰という行為をめぐる哲学的思索の歴史的水脈のなかにあり、それゆえに西欧における大きな知の動きを体現する要素であったことが示された。論争のなかで新たに生まれてきた「教会的信」の根源に、フランスの神学者マルタン・グランダン、さらにはスペインの神学者ジャン・ド・ルーゴの存在があることが把握された点も、重要な成果であった。以上の研究実績は、フランス語による論文として、福岡女子大学の紀要にまとめた。 対神徳としての信仰にかんする実践の一例として平成24年度にとりあげた篤信家結社「聖体会」についての分析も並行して続けられた。この組織の信心活動が社会に及ぼした実際の影響を考察していくなかで、ジャンセニスムの牙城とされたポール=ロワイヤル修道院が、危険視すべき政治結社として中傷を受け続けた理由のひとつが聖体会との関連にある可能性が浮かび上がってきた。この点は、なぜジャンセニスムは政治的な迫害を受けたのかという「ジャンセニスムと政治」にまつわる大きなテーマに新たな光を投げかけるものであるため、考察の成果を、日本語による論文として、日仏歴史学会の会報に投稿し、掲載許可を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャンセニスム論争における信仰の認識にかんする理論的対立をめぐるテキストの収集、読解、分析は、夏季のフランス滞在が予定通りに実現したこともあり、十分に行うことができた。16世紀以来のトマス神学との連結についてはいまだ課題は残るものの、ひとつの同じ論点が17世紀末まで共有され続けたこと、当事者もそれを意識していたことは理解されたため、当初の目的に沿って、信の観念史の展望は示された。また、聖体会の実践をめぐる考察が、ジャンセニスムと政治にかんする論考へと導かれた点は、本研究の予想をこえた進展であった。以上のそれぞれについて活字論文が公表されたことも考え合わせるなら、本年度の研究は、おおむね順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題がこれから向かうべき方向は、ジャンセニスム論争における信仰分析の論点が、その後、どのように受け継がれて18世紀へと至ったかを検討することである。この点は、まだ先行研究が少ない領域であるが、ジャンセニストとプロテスタントの論争をへて18世紀のジャンセニスム論争の再燃にいたるなかでの関連著述家のテキストを精読することから始める必要がある。その際に注意すべきは、信仰の認識論的探求と表裏の、良心の自由の問題である。なにをどのように信じるべきかという問いは、なにをどうして信じないでよいかという問いと不可分だからである。そこでは、ベール、さらにはフェヌロンの議論が参照されることになるだろう。
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