研究課題/領域番号 |
24720045
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
上原 真依 愛媛大学, 教育学部, 講師 (90609463)
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キーワード | 美術史 / 19世紀美術品市場 / 祭壇画 / カルロ・クリヴェッリ / イタリア / マルケ地方 |
研究概要 |
本年度は、1)前年度に収集したナショナル・ギャラリー初代館長C.L.イーストレイクの書簡・報告書に基づく祭壇画作品整理、2)ローマおよびアスコリ・ピチェーノ、ミラノの古文書館における19世紀祭壇画売却に関わる史料追加調査(11月2日~17日)とその整理、3)ファブリアーノ、ラメッリ家文書の調査の3点を行った。これらの調査・整理は、19世紀にルネサンス期祭壇画が解体、売却された過程を明らかにする上で欠かせないものである。 1)イーストレイクらがイタリア視察中に目撃した祭壇画を、書簡集と報告書の記述をもとに明らかにするとともに、実際に購入に至った作品情報を併せて整理することで、当時市場価値の高かった祭壇画を明らかにすることを試みた。 2)ローマおよびアスコリ・ピチェーノの国立古文書館では未調査分の年代の史料を補完したほか、ミラノ国立古文書館ではブレラ絵画館における美術品交換に関する記録を新たに確認した。ローマおよびアスコリの調査では、従来グロッタンマーレ由来と考えられていたクリヴェッリの祭壇画(ヴァチカン絵画館所蔵)が、アスコリ・ピチェーノのサン・グレゴーリオ聖堂由来だったことを売却時の記録から明らかにし、その成果を『待兼山論叢』47号に投稿した。 3)19世紀に同市で有力な貴族であったラメッリ家宮殿内の未刊行史料にアクセスする機会を得た。中でも、カミッロ・ラメッリの記したファブリアーノの歴史書や聖堂に関する覚書は、これまで知られていなかった19世紀ファブリアーノの美術品状況を伝える貴重な史料である。時間の都合もあり、多様な未整理の資料のすべてを検証することはできなかったが、クリヴェッリの祭壇画に関する記述を確認することができた。来年度はこの記述に関する研究発表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年4月より勤務先が変わり、申請当初想定していた環境でなくなったため、国内での資料収集が困難になったほか、海外調査の時期・日程について変更せざるをえなくなった。 ただし、前年度までに収集していた史料群を整理し、市立図書館や文書館の司書と意見交換をした結果、ファブリアーノの未刊行史料群にアクセスできる機会を得るなど、限られた日程の中でも次年度の成果発表に向けての下準備を整えることはできた。また当初予定に挙げていたイーストレイク関連の史料調査においては少しの遅れはあるものの、新たに見つかった史料群はこの遅れを十分にカバーできる内容を備えているものであるほか、次年度にイギリスで補完調査を行うことで当初の目的は十分達成可能と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
申請課題最終年である平成26年は、各国美術館やコレクターの元に渡ったクリヴェッリ祭壇画パネルが、「タブロー」として扱われていた状況を、ミラノ、ブレラ絵画館関連の史料調査を中心に研究する。なお、当初予定していたベルリン絵画館の《聖ペテロに鍵を授与する聖母子》関連の史料調査は、現在、所蔵館が購入時の史料を所有していないことが判明したため、計画を変更して下記のファブリアーノ由来の祭壇画の研究を中心とする予定である。 平成25年に新たに確認したファブリアーノの未刊行史料の調査をさらに進める必要があるため、現地での調査を進めるとともに、現存する祭壇画パネルとの比較検証を進めその成果を国内の学会にて発表する。 さらに、イーストレイクの書簡・報告書を整理する中で、未刊行のボザール文書を確認する必要が生じたため、8月にナショナル・ギャラリー附属図書館で調査を行う。 現地での調査後は、収集した史資料を整理することで、祭壇画パネルが「タブロー」として扱われた後、再び15世紀の祭壇画作品として認識されるに至った現象を考察し、学会誌で発表予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ユーロの相場変動により、当初予定していた本の購入ができなくなり、発注を次年度に回したため、差額が生じた。 引き続き、19世紀美術品市場に関わる資料の購入に充てる予定である。
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