研究課題/領域番号 |
24720050
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
大島 幸代 龍谷大学, 龍谷ミュージアム, 助教 (60585694)
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キーワード | 護法神 / 南北朝時代 / 隋唐時代 / 石窟摩崖 / 天王 / 金剛力士 / 国際情報交換(中国) |
研究概要 |
本研究は、中国で生まれ展開した多種類の護法神像の全体を見通し、主に護法神像の造形上の問題から検討を進め、南北朝時代後期という時代が多くの護法神像を生み出す土壌となりえた要因、仏教の本場インドではなく中国で護法神が必要とされた要因を解明することを目指すものである。本研究では、中国南北朝期から唐代に至る護法神像の現存作品の実地調査とその成果の図像学的な分析・検証、および伝法と持戒を旨とした高僧に関連する史資料・美術資料の精査・分析という、二つの方向から護法神信仰史の総体的な構築を行おうとしている。 本年度は特に、昨年度の成果(護法神信仰と関係の深い僧の抽出)を踏まえ、隋唐時代までに中国へ来ったインド、中央アジアなどの高僧の事蹟を、史資料を博捜し収集・精読する作業を進め、護法神の中でも特に迦毘羅神王に注目し、高僧の伝記資料を中心に史資料にどのように登場しどのような役割を果たすと語られているかを考察した。また、渡来僧の中では特に南朝宋代の曇摩密多、求那跋陀羅、梁代の僧融等の事跡と護法神像の造形化との関連について考察を進めた。これに加え、東アジアの高僧の姿を造形化した美術資料(肖像作品、羅漢像等)のなかから、従者を伴う像、特に神将形や夜叉形等の異形の像を伴う作品を抽出し、これらの造形資料と伝記等の史資料との関連を探った。特に研究の進展上重要と考えられる作品については、次年度以降に調査を行う予定であり、その準備作業に位置づけられる。護法神像の現存作例の調査も並行して進め、東京国立博物館が所蔵する大谷探検隊関係資料の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、中国で造形化された多種多様な護法神像の全体を対象とするものである。インドや中央アジアではなく中国において、更には南北朝時代後期という時代に護法神の造形化が進んだ要因を、時代および地域という両側面から解明することを目指すものである。現地調査による中国南北朝期から唐代に至る護法神像の基礎情報の収得と、それを踏まえた図像学的分析・検証を行うこと、および文献史料・石刻資料などを博捜し、護法神信仰に関する史資料の収集・分析を行うことが柱となる。今年度は、実作例調査および文字資料の分析ともに概ね当初の計画通りに進めることができた。 作例調査については、国内の機関が所蔵する作品を対象とし、これまでに行ってきた中国における現地調査、国内調査で獲得した基本情報のデータベース化作業を集中して行った。またこれと並行して、高精細写真撮影したデジタルデータの整理および分析を行った。 文献・石刻資料による文字記録の収集・分析については、迦毘羅神王と中国への渡来僧との関係、曇摩密多、求那跋陀羅、僧融等の事蹟に焦点をしぼり考察を進めた。その際、南北朝時代において仏教的護法神(あるいは護法善神、護塔神、護寺善神等とも称される)が、各地域で信仰を受けてきた土着の神々とどのように共存あるいは混交していったかという現象にも注目した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、中国南北朝期から唐代に至る護法神像の現存作品の実地調査を行い、そこで収得した基礎情報を整理しデータベースを作成し、それをもとに図像学的な分析・検証を行う。この基礎作業を継続的に行い、造形美術からみた護法神信仰史の総体的な構築を可能にする強固な基盤づくりを行っていく必要があるが、ひとまずこれまでに獲得した作例の基本情報とその考察をまとめ報告書の形で発表する予定である。現地調査先には、護法神の作例が豊富に残ると推定される地域―中国山西省・陝西省周辺など―を優先的に選定し、問題解明の鍵となる護法神像の作例の抽出に努める。またそれと並行して、高僧を造形化した美術資料の調査を行い、文献・石刻資料にみられる記録との関連について考察を深めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に中国河南省・陝西省の石窟摩崖の護法神像作例を現地調査する計画としていたが、中国において近年急速に進展する調査・発掘の成果が学会における報告や刊行物の形で公開され、それを踏まえた事前調査を行った結果、護法神像の重要作例の発見があったため、次年度の中国における実地調査の期間を長くし、対象地域も広げることで対応することとした。 研究課題の解明のために重要な作例が所在する陝西省・山西省・遼寧省の石窟摩崖の作例および博物館等の機関が所蔵する作品の現地調査を、8月から9月にかけて約15日間の日程で行う。事前調査に必要な関係図書資料の購入、資料の複写を行う。また、国内に所蔵される高僧像の作品調査を2泊3日の日程で行い、研究成果を国内の学会等で発表する。これまでに獲得した高精細写真データや収集資料、作成した作例データベースをまとめ、報告書の形で公開する(研究協力者への資料整理の謝金、印刷費)。
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