研究課題/領域番号 |
24720051
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島女学院大学 |
研究代表者 |
福田 道宏 広島女学院大学, 国際教養学部, 准教授 (10469207)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 美術史 / 日本史 / 絵師 / 宮廷 / 地下官人 / 公卿 / 押小路大外記家 / 原家文書 |
研究概要 |
本研究が目指すのは、18・19世紀、宮廷御用絵師の動向の通時的な解明である。そのためには、絵師ひとりひとりの伝記・事績に深入りせず、絵師の動向を客観視出来る公卿・地下官人の記録など文献史料から絵師の営みを拾い集める作業が必要となる。 初年度である平成24年度は、国立公文書館内閣文庫所蔵の押小路大外記家の日記を中心に、京都府立総合資料館での閲覧調査も行った。まず、10月、11月の2度にわたり京都府立総合資料館で備え付け目録の精査を行い、一部を閲覧した。絵描きに直接的に関わる記事はあまり見つからなかったが、自身、絵描きであり地下官人でもある原家の「原家文書」のうち『大宝得』を複写した。11月には国立公文書館・国立国会図書館などで閲覧をおこなった。国立公文書館では押小路家の日記類を重点的に閲覧調査し、すでに前半17冊複写済みの『大外記師資記』の筆者師資の次代師武の『大外記師武記』の複写を行った。3月には同館で師武の次代師贇の『大外記師贇記』の閲覧をし、『大外記師資記』の後半20冊と合わせて複写申請を行った(学内規程の旅行申請期限を過ぎていたため旅費は執行していない)。 複写を終えたものに関しては、閲覧時のメモも見ながら、絵師に関わる記事を拾いつつ読み進めた。記事のなかで直接的に絵師が現われる頻度は低いものの、彼らが仕事を獲得しようとして積極的に関わりを持った宮廷の日常が見えてくるという点では非常に興味深い。そこで、絵師の動向も探りつつ、併行して試みに全翻刻も行った。翻刻出来た分量は、通読したうちのごく僅かだが、いずれもう少し時間をかけて取り組みたい。翻刻の冒頭部分は「国立公文書館内閣文庫所蔵『大外記師資記』―翻刻と改題 その一―」(『広島女学院大学生活科学部紀要』20)として公刊した。なお、嵩張る複写物を持ち歩かずに出先でも検討できるよう、スキャンしてデジタル画像化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国立公文書館内閣文庫所蔵の押小路大外記家の日記に関しては、すでに大半を閲覧済みの『大外記師資記』37冊(1755~98)から始めて、次の師武の日記40冊(1781~1805)、その次の師贇の日記5冊(1806~10)、同家の家士が記したと思われる『玄関日記』29冊(1741~47)の一部なども閲覧した。閲覧には書庫からの出納も含め、相当の時間を要するため、複写をとって効率化を図った。また、閲覧中の限られた時間では見落とすかもしれない記事を後日精査するためにも複写は有効である。 本研究開始以前に『大外記師資記』の前半17冊の複写があったため、まずはこれを通読しながら絵師の記事を拾った。開始後、『大外記師武記』40冊も複写し、うち21冊までを読んだ。3月の閲覧で複写申請を行った『大外記師資記』の後半20冊、『大外記師贇記』5冊と合わせると、18世紀半ばから19世紀初頭までの日記が揃い、検討の俎上に載ることになる。期間中には天明の大火もあり、記事には精粗の差はあるが、絵師原在明の叙任や江戸下向のための暇願いの記事なども見つかった(「文化四年、原在明の江戸下向と享和・文化年間、原家の動向」を投稿中)。 なお、複写からのデジタル画像化は、アルバイトを使用して、3月末までに『大外記師資記』17冊と『大外記師武記』5冊の約3000枚のスキャンを完了した。 もちろん、押小路大外記家の日記はまだまだ膨大で、当初予想より複写費もかさみ、検討にも時間がかかる。ただし、日記の場合、筆跡には書き癖があり、見慣れることで読む速度も上がる。また、彼らが書きとめるもののうち、大半を占める年中行事などの記事は、ほぼ毎年、代が替わっても、変わらずに記されるため、読み慣れると効率よく読むことが出来る。今後、これまで以上に速度と効率を上げて、読み進めてゆきたい。以上のような状況から、概ね予定通りの進捗と言える。
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今後の研究の推進方策 |
25年度以降は、これまでの閲覧と複写、スキャン、通読を継続するとともに、より効率的に速度を上げて検討してゆく。上記のように、書き癖に読み慣れ、記事の内容に予見があれば、速度を上げることは可能だと考える。 これまで、25年度は18世紀半ば以降を検討してきたが、もう少し遡って、17世紀から18世紀の世紀の変わり目あたりまでを視界におさめておきたいと考えている。17世紀までの御所の大規模造営では幕府御絵師が主要な御用をつとめ、京都絵師の参入はごく限られている。一方、譲位などにかかる小規模造営では、18世紀前半の段階でも京都絵師が御用を勤めていた(拙稿「近世、御所の小規模造営・調度新調における絵師の御用について―宝永・享保の春宮立坊を中心に―」『京都造形芸術大学紀要』14、2010年)。宮廷の画事に関して、その規模の大小により、御用を担う絵師には違いがあった。こうしたことから、宮廷画壇の勢力図も17世紀と18世紀前半、18世紀後半では大きく異なるものと予想される。また、18世紀後半以降の京都絵師の隆盛がどのような契機でもたらされたかを知るために、通時的に変化の過程を追ってみたい。 また、最終年度に向け、押小路大外記家の日記以外の文献史料や、宮廷画壇の絵師の作品も徐々に調査してゆくつもりである。また、これまでに拾い得た事実を編年化して、まとめる作業にも着手したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は概ね予定通りの費目での使用を考えているが、複写費が予想以上にかさむ見込みなので、閲覧調査などを効率化して日数を減らすなど旅費の圧縮をはかりたい。 年度の前半には継続中の『大外記師武記』のスキャン、3月複写申請(複写費は25年度に執行)の『大外記師資記』の後半20冊、『大外記師贇記』5冊のスキャンを行いながら、複写やデジタル画像をもとに通読と絵師の記事を拾う作業を中心に行う。また、まとまった時間のとり易い8月以降に向け、押小路家以外の文献史料についても所在確認や閲覧の可否などを調べたい。具体的には、京都大学総合博物館が所蔵する「島田家文書」について、閲覧が可能な状態になったかどうか再確認をする。京都府立総合資料館・東京大学史料編纂所・宮内庁書陵部の地下官人・公卿の史料についても所在確認を行う。 年度の後半には、東京・京都での閲覧調査を実施する。併行して、最終年度に向けて、これまでの成果を可視化するなど取りまとめの準備もしておきたい。 なお、今年度、宮廷画壇の絵師の作品などの、既存の調査ポジフィルムのデジタル化のためフィルムスキャナ導入を予定していたが、当初予定のメーカーがフィルムスキャナから撤退し、機種が廃番となって入手不可能となった。現在、フィルム及びフィルムカメラが存亡の危機にあり、選択肢のあるうちに早期に、別メーカーの機種を購入しておきたいと考えている。
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