研究課題/領域番号 |
24720051
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研究機関 | 広島女学院大学 |
研究代表者 |
福田 道宏 広島女学院大学, 国際教養学部, 准教授 (10469207)
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キーワード | 美術史 / 日本史 / 絵師 / 宮廷 / 地下官人 / 公卿 / 原家文書 / 幕末 |
研究概要 |
本研究では、宮廷御用絵師の18から19世紀にかけての通時的な動向解明を目指している。そのため、絵師ひとりひとりの伝記・事績に深入りせず、巨視的に絵師の動向を客観視出来る公卿・地下官人の記録など文献史料から絵師の営みを拾い集める作業を行っている。 平成25年度は、国立公文書館内閣文庫所蔵の押小路大外記家の日記は一定量の複写を前年度末までに、すでに終えているため、その検討を行うこと、また、閲覧による原本校正の必要な個所を抽出すること、国立国会図書館・京都府立総合資料館ほか他所所蔵資料にどのようなものがあるのか優先順位をつけることを念頭に調査・検討を行った 4月には前年度に引き続き京都府立総合資料館で閲覧と資料収集を行った。国立公文書館の押小路家日記類では『大外記師資記』・『大外記師武記』など複写済みの資料をスキャンしてデジタル画像化するのと併行して、閲覧時のメモも参照しながら翻刻と検討を行った。また、本研究開始以前に複写してあった国立国会図書館所蔵「禁裏御所御用日記」の検討、京都府立総合資料館所蔵「原家文書」のスキャンと検討、宮内庁書陵部において一部手書きで写してきたものの翻刻や複写済みの資料の検討も継続して行った。 今年度の調査を通じて、当該期の最末期にあたる幕末の絵師の御用を把握しておくことが、それ以前の御用の内容を知る上でも重要なことが再認識できた。それは単に比較材料となるからではなく、幕末の御用を勤めた絵師たちが提出した由緒書などのなかに彼らの先祖や師系に関する豊富な記述があるからである。また宮廷画壇の絵師たちの存立基盤であった、近世宮廷(延いてはそれを経済的に支える幕府)の制度が瓦解する幕末期は近世宮廷画壇の最終形でもあり、ここを重点的に検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国立公文書館内閣文庫所蔵の押小路大外記家の日記に関しては、『大外記師武記』のスキャン2252カット、『大外記師贇記』のスキャン1182カットを終え、これで複写済みの分のデジタル画像化は完了した。また、京都府立総合資料館蔵「原家文書」については1197カットのスキャンを行った。スキャンの作業に関してはアルバイトを使用した。 今年度、前半は同時に検討を行っていたが、後半、先述の通り、幕末期の絵師の御用の把握と検討に重点を遷したため、押小路家の日記は一時中断中であるが、平成26年度、幕末期の日記の閲覧と検討をするところから再開したい。また、かつて調査した実作品のポジフィルムを一部整理を行った。それらは実作品から直接撮影したものであり、細部の写真もあり、貴重である。一部は、25年度に購入したフィルムスキャナーでスキャンを行った。ただし、枚数が膨大であり、当初スキャナの操作に不慣れだったため、全体のごく一部に過ぎない。 なお、幕末の御用に関しては、本研究開始以前に複写済みの資料や手書きで写しとってきたものを翻刻し、検討するところから開始した。その結果、幕末の御用の重要性がより明白になった。特に「原家文書」に含まれる幕末の宮廷御用に関する記録は、松尾芳樹氏がかつて「近世土佐派記録6」(『京都市立芸術大学芸術資料館年報』8号、1996年)として報告した御用と同じ御用が含まれ、さらに松尾氏の資料と異同があったり、ほかでは全く知られていない御用も含まれており、貴重なため、全翻刻を行うとともに、学会での口頭発表を行う予定にしている。25年度閲覧に行かれた回数は少ないものの、研究そのものは既存の資料を用いて検討は順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である26年度は、これまでの閲覧と複写、スキャン、通読を継続するとともに、より効率的に速度を上げて検討してゆく。 当初18世紀半ば以降を検討し、その後、少しさかのぼって17世紀から18世紀の世紀の変わり目あたりまでを視界におさめて検討も行ってきたが、先述の通り、平成25年度後半は逆に降って19世紀の中期以降、幕末を重点的に検討した。幕末に関しては一定の見通しが立ちつつあるため、今後はこれを継続しつつ、再び18世紀から19世紀にかけての全期間に目配りして作業を進める。特に、大きな事件や御用のない「端境期」の絵師たちの動向を重点的に調査・検討することにより、通時性を担保したいと考えている。 26年度は研究のまとめを行うことも考えて、これまでに検討を終えた点について、個別のばらばらのデータの整理を行って、編年的、通時的な年表作成にかかりたい。また、一時中断している押小路大外記家の日記の閲覧調査、検討も再開するつもりである。さらにはそれ以外の文献史料や、宮廷画壇の絵師の作品も徐々に調査してゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は申請時より平成24年度から26年度までの3箇年計画で研究を進めている。最終年度にあたる平成26年度も1100千円の交付が予定されている。 平成26年度も概ね当初の予定通りの費目での使用を考えているが、初年度と25年度に複写費が予想以上にかさんだため、旅費もしくは備品費などの圧縮をはかりたい。今年度の予定としては、まとまった時間のとり易い8月以降を中心に複数回、東京方面での資料調査を考えている。具体的には押小路家の日記の閲覧調査、国立国会図書館での閲覧調査を考えている。また、閲覧調査に行く以前に既存の複写資料などをもとに検討を継続しつつ、「原家文書」「禁裏御所御用日記」などスキャンによるデジタル画像化未了の分について、アルバイトによるスキャン作業を同時進行で行いたいと考えている。年度の後半11月以降は調査ももちろんだが、全体の整理とまとめに時間を割くことができるよう秋口までに調査に関しては目途をつけたい。
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