本研究では、18、19世紀の宮廷御用絵師の総体の、通時的な動向の把握を目的としている。具体的には絵師各々の画業ではなく、いつ、どのような御用があり、それを誰が勤めたか、そしてその人選、担当箇所決定がどのような原理に基づいていたかを解明することを目指してきた。そのため、出来る限り客観的かつ巨視的な視角からの記録を用いることとし、公卿・地下官人の日記など文献史料で、比較的長期間に亘るものを優先的に検討してきた。こうした文献史料には宮廷の日常が書き留められており、絵師の宮廷御用の背景となる宮廷社会の具体相を垣間見ることが出来、また、絵の御用以外の絵師の営みも見ることが出来る。史料は膨大であり、一面では遠回りのようではあるが、御用のみに関する史料からは知りえない情報を得られるという面もある。 最終年度となる平成26年度は、引き続き国立公文書館所蔵の押小路大外記家の日記、京都府立総合資料館所蔵・寄託の「下橋家資料」・「平田家文書」などの閲覧調査を続行するとともに、すでに複写済の文献史料に関しても冊子のノドにかかった文字などを原本で確認して精度を上げるなどの作業を行った。また、複写物のスキャンも続行し、検討を継続した。さらに年度内に宮廷御用絵師にも関わる展覧会が開かれたため、会場で調査を行った。 25年度からの検討により、幕末に関しては網羅的に宮廷御用の時期や規模、そこで御用を勤めた絵師の顔ぶれを把握できたため、一覧表にまとめるとともにその成果の一部につき口頭と論文での発表を行った。また、その後、維新前夜、慶応年間の明治天皇女御入内の際の御用に関する史料から絵師の動向がかなり鮮明にわかることが明らかになり、現在、発表準備中である。年代により検討が不充分な時代もあり、形式が不統一ではあるが、時代ごとの表を作成し、17、18世紀、幕末までの絵師の総体を通覧し、一定レベルでの把握が可能となった。
|