研究課題/領域番号 |
24720052
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
宮崎 衣澄 富山高等専門学校, 国際ビジネス学科, 准教授 (70369966)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ロシア正教古儀式派 / イコン |
研究概要 |
今年度は古儀式派イコンの教義上の特徴を把握するために、教会規定に関する文献資料の分析を行った。国家正教会側から発令されたものとして、1551年の百章会議、1666年モスクワ公会議、1722年の宗務院規定のイコンに関する記述をとりあげて分析した。古儀式派の言説としては、1722年ポモーリェの返答をとりあげ、イコンに関する章のほか、四福音書記者のシンボルの描き方等を記した部分を翻訳した。その結果、国家正教会で禁止された図像の中に、国家正教会の決定を受け入れない古儀式派では19世紀まで描かれ続けたモチーフがあることが明らかになった。しかし、国家正教会の禁令は地方のイコン画家にまで徹底されたわけではないため、古儀式派イコンか否かについてはモチーフだけにとどまらず、さらに詳細な検討を要することが分かった。 次に古儀式派イコンに関する最新の文献と画像資料を収集し、最新の研究動向を調査した。古儀式派イコンの特徴を、古儀式派全体に共通するものと、古儀式派の拠点や流派独自の特徴とに分類した。古儀式派全体に共通する特徴は、先にのべたモスクワ公会議やニーコンの改革による変更点が中心となっている。一方各流派や拠点ごとの特徴では、制作地や教義によってかなり相違点があることが分かった。例えば古儀式派は本来ニーコン以前のイコンを手本としていたが、ウラルのネヴィヤンスク派などでは、背景の自然や建物の描写において、古典主義やバロックといった当時の芸術潮流の影響が色濃く表れている。各拠点の特徴については、今後もさらに多くの作品と文献資料を収集し、分析を深めていくこととする。 古儀式派を含め、帝政ロシア期にロシア人が日々の生活の中でどのようにイコンを使用し、扱っていたかに関して、ユーラシアブックレット『暮らしの中のロシアイコン』(共著)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は古儀式派が好んで描いた図像とその特徴を明確化し、古儀式派イコンか否かを推定する際の一つの手がかりを提示することである。今年度は文献資料を中心に公会議や宗務院の規定などを分析した結果、次のことが分かった。古儀式派イコンの特徴の一つとして、ニーコンの改革以後の国家正教会の規定に従わないことがあげられる。具体的には1666年の公会議においてエホバの図像を、1722年の宗務院規定で民間伝承的で正教の教義に従わないとされた聖クリストファーの図像等を19世紀まで描き続けたことである。また研究実績でも述べたように、古儀式派指導者自身の言説についても分析をおこなった。すなわち古儀式派イコンの基礎となる、イコンに関する国家規定とそれに対する古儀式派の言説を整理することができたため、今後具体的なイコンの分析と整理が順調に進むと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、まず国内で入手可能な文献資料、イコン画像を蒐集する。そしてイコンのタイトルのほか、各モチーフで検索することが可能な古儀式派イコンの図版カタログを作成する。今年度収集した資料の分析を深め、同年代に同一モチーフを描いた国家正教会のイコンや写本、儀軌などと照らし合わせて違いを明確化する。 今年度実施することができなかったロシアでの現地調査を行う。モスクワの国立歴史博物館、アンドレイ・ルブリョフ美術館等で古儀式派イコンの実見調査を行い、モスクワのレーニン図書館で教会規定等に関する文献資料を蒐集する。サンクトペテルブルグのロシア美術館等においてもイコン調査を行い、古儀式派イコン研究の第一人者であるピヴァヴァローヴァ氏と研究の進捗状況を話し合い、今後の研究に関する助言をいただく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は予定していたロシアでの現地調査を行うことができなかったため、予定していた研究費との差額が生じた。次年度はモスクワとサンクトペテルブルグでの海外イコン調査に多くの研究費を使用する予定である。また5月に行われる古儀式派研究会で研究発表を行うための経費、その他学会発表や学会参加に係る経費を見込んでいる。 人件費として、ロシアの研究者への専門知識提供に対する謝金、イコンカタログ作成にかかる研究補助者への謝金を見込んでいる。 今年度同様、古儀式派関連の文献とイコンアルバム等を購入する予定である。
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