研究課題/領域番号 |
24720059
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高田 みわ子(田中みわ子) 筑波大学, 外国語センター, 特任研究員 (10581093)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ディスアビリティ・アート / 障害学 / 身体 / 芸術実践 |
研究概要 |
本研究は、障害者アートの実践において、芸術表現の「美学」がどのように創出・形成されているのかについて実証的に調査分析を行うものである。本年度は米国におけるディスアビリティ・アートの実践に焦点を当てて、芸術表現に関する資料収集およびその分析につとめた。 1970年代以降、特に英米において、ディスアビリティ・アート(disability arts)と呼ばれる障害者アートの実践が障害者運動の文脈から生まれ、数多くの実践がなされてきた。ディスアビリティ・アートの実践がどのような芸術表現形式を生み出しているのか、そこにはどのような障害当事者自身の美意識がみられるのかを実践にそくして把握するために、9月にミシガン大学を中心に聞き取り調査を行った。その成果を、10月に神戸大学で開催された障害学会でポスター発表した。 障害者の芸術表現の「美しさ」、すなわち「美学」が生成される過程について考察するにあたり、特に障害当事者が自らの芸術表現の「美」をどこに見出しているのか、それは従来の芸術表現への意味づけとどのように異なっているのかという観点から、ニューヨーク在住の画家ローラ・ファーガソンの絵画作品に焦点をあてて分析を試みた。その成果を、12月に愛媛大学で開催されたアートミーツケア学会で報告し、その一部を論文"Visualizing Beauty and Pain in Laura Ferguson's Visible Skelton Series"にまとめた。 現在、これらの成果をふまえた論文を執筆している。次年度の課題となる芸術表現の「即興性」の観点については、8月の国際学会(アジア・太平洋発達障害会議)において研究発表を行うことがすでに決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ研究実施計画に記載した通りの進捗状況であり、本研究の目的を順調に達成しつつある。 本研究の目的は、1)障害学の視点に基づいたディスアビリティ・アート研究の視座を獲得すること、2)ディスアビリティ・アートの表現において形成される美学が、従来の「障害」の文化的表象や身体イメージを変容させるものとして立ち現われつつあることを示し、そのような美学を創出・形成する場として、障害学およびディスアビリティ・アートの実践が重要な役割を果たしていることを明らかにすることである。 1)については、米国におけるディスアビリティ・アートの実践を、個と環境との相互作用として障害を理解する障害学の学術的背景と関連づけて分析を行った。そうすることにより、社会的文化的規範や価値観に対してディスアビリティ・アートがもつ多義的な意義を捉えることが可能となった。 2)については、実地調査にもとづいて各事例の検証作業を行い、考察のプロセスや成果を学会や論文で発表した。今年度の研究成果を踏まえて次年度はさらに理論と実践とを統合させながら研究を進めていくこととなる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得られた結果をもとにして、1)研究会での研究報告、調査関係者へのフィードバックを行いながら分析・解明作業を進め、2)アウトプットとしての国内・国外発表や、公開資料の作成を行っていく。 1)分析・解明作業については、今年度の研究成果から得られた「美学」の成立過程を、芸術表現の「即興性」の観点から追究する。コントロールされ、予測可能な「美」とは異なる美のありようが文化的価値観の変容にもたらす効果を、障害学の視点から実証的に解明することを目指す。 2)アウトプットとしての研究発表、公開資料の作成については、8月に早稲田大学で開催される第3回アジア・太平洋発達障害会議(IASSID)で研究成果を発表することがすでに決定している。適宜、当該分野の研究者および実践者と研究内容の妥当性について意見交換を行う。障害者アートの実践団体に研究成果を公開していく準備を進めることで、今後の障害者アート研究の基礎的な資料を提供する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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