本研究は、ディスアビリティ・アートの実践において、芸術表現の「美学」がどのように創出・形成されているのかについて実証的に調査分析を行うものである。初年度である24年度は米国におけるディスアビリティ・アートの実践に焦点を当てた。ディスアビリティ・アートの実践がどのような芸術表現形式を生み出しているのか、そこにはどのような障害のある当事者自身の美意識がみられるのかを、実地調査を踏まえて考察した。 最終年度である25年度は、前年度の研究成果から得られた「美学」の成立過程を、芸術表現の「即興性」の観点から追究した。米国の実践例に加えて日本の事例についても取り上げ、コントロールされ、予測可能な「美」とは異なる美のありようが文化的価値観の変容にもたらす効果を、障害学の視点から解明することを目指した。この成果を8月に開催されたアジア・太平洋発達障害会議で報告し、ディスアビリティ・アートの実践者や研究者と意見交換を行った。 研究期間全体を通じて明らかとなったことは、ディスアビリティ・アートの表現において形成される美学が、従来の「障害」の文化的表象や身体イメージを変容させるものとして立ち現われていることである。障害学およびディスアビリティ・アートの実践は、そのような美学を創出・形成する場として重要な役割を果たしていると考えられる。本研究は、障害学の視点に基づいたディスアビリティ・アート研究の視座を獲得し、社会的文化的規範や価値観に対してディスアビリティ・アートがもつ多義的な意義を捉えることを可能とするものである。また、ディスアビリティ・アート研究の基礎的な資料を提供するものでもある。本研究の成果をまとめた研究論文は、『障害学研究』に採録が決定している。
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