本研究課題では、大正期の関西(主として京阪神)における新劇運動の実態を、「上演」および「東京との比較」という点に注目しながら調査、研究することを主眼とした。大正期は関西新劇の形成期であり、どのように関西で新劇が誕生、成長していったかということを明らかにしようとした。具体的には、「関西第一次新劇運動に与えた文芸協会の影響」「宝塚という場所が果たした役割」などを主要なテーマとした。 「上演」を扱うには、それに関する一次資料、たとえば台本、プログラム、演出ノート、劇評、舞台写真等を調査することが必要になるが、東京を中心とする新劇研究と比して、先行研究ではまだ十分に確認されているとは言えない状況である。今回の成果の一つとして、これまで言及されることのなかった資料、とくに関西新劇史の嚆矢とされる『幻影の海』(イエーツ作、加藤朝鳥演出)上演に関する資料をいくつか見つけることができ、その研究を前進させることができた。 『幻影の海』が上演されたのは、のちに宝塚少女歌劇の拠点となる宝塚のパラダイスであった。上演そのものとそれをとりまく環境、すなわち、パラダイスとはどのような劇場を有していたのか、そこはどのようなパフォーマンスが行われる場所だったのか、『幻影の海』がどのように受容されたのかといった点を明らかにすることができた。詳細は「宝塚と新劇(一)宝塚のパラダイスと関西新劇の誕生」の中で論じたとおりである。
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