研究課題/領域番号 |
24720073
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
八代 嘉美 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (30548566)
|
キーワード | 幹細胞研究の社会受容 / 再生医療 / サイエンス・フィクション |
研究概要 |
1950年代から1980年代にかけてのSF作品の収拾、および分析を中心にした研究を行った。1953年にワトソンとクリックが遺伝子という抽象概念を「DNA分子」という実体をもつ物質へと還元させた。このことは、「遺伝子工学」という手法による身体改変技術が現実可能性を帯び始め、SFのフィールドにおいても、古典的優生学的な選抜育種的方法論による描写から、直接遺伝子を操作するという方向へとシフトしていく。また、1962年にはイギリスのジョン・ガードンによって「クローン」の作出が成功し、SF作品の中において、遺伝子工学とクローンという2つの技術をモチーフとして取り上げる作品が現れ始め、作品内に描かれる技術内容と、実際の科学研究のレベルについて生物学史的な背景との比較を行い、一般読者が当時の先端科学についてどのような感想を持っていたか分析をった。また、1980年代に入ると、これらの生物学的なアプローチだけではなく、コンピューターネットワークについて取り込んだ作品群が現れる。「サイバーパンク」と呼ばれる作品群がそれで、同時代の一大ムーブメントとなっている。言葉の成立をたどればサイバー(cyber:電脳、コンピュータネットワーク程度の意)とパンク(punk:青二才、チンピラ)の合成語であることから、人間とコンピュータ(ネットワーク)の融合した社会を描いている。これらの作品は、当時勃興し始めたニューラルコンピューティングと生物との融合した社会を描いており、古典的な「自然」と「文化(技術)」を切り分ける二項対立による理解を超えた、ポストモダン的社会を問うている。こうした作品からは、身体に技術を取り込むことは不可避であることを認識しながら、いかに人間性を維持し、新しい価値観を創造するのか、という「キメラ技術」が具現化する再生医療時代に重要な問題を剔出することが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の遅れが影響し、論文執筆に至るまでの論点整理がやや遅れているが、資料収集など、予定した作業や分析は概ね順調に行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
計量社会学、および科学コミュニケーション研究者との共同を継続しつつ、新たにアメリカ文学研究の研究者、およびフランス文学の研究者との連携を開始しつつあり、文学研究の面からも新しい知見を取り入れることを行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
参加予定であった学会に不参加となったことなどによって、計上していた学会参加費が未使用となり、次年度使用額となった。 予算の関係上購入の可否を検討していた資料の収集やヒアリングの経費として、調査研究の充実を図る。
|