前年までは西欧を中心としたSF作品群に注目をしてきたが、本年は日本におけるSF作品に注視した研究を行った。安部公房『第四間氷期』(1959)、小松左京『復活の日』(1964)、瀬名秀明『パラサイト・イヴ』(1995)など、生命科学の知識を基盤とし、人間とは何か、生命とは何かという問題に対して挑戦した伝統を持つようになった。こうした文脈について、にほんで最大のSF関係のコンベンションである日本SF大会に参加し、情報収集を行うとともに、世界最初のSF小説とされる『フランケンシュタイン』やその他の英米文学作品と比較し、英米文学者との討議を行うなどした。また、近年、伊藤計劃といった成熟した生命科学や医療技術を描く作品が海外にも翻訳され、非常に高い注目を集めていることから、アメリカ・ワシントン州スポーケンで行われたSFコンベンションに参加し、海外のSF研究者などと討議を行った。このように日本SFを概観し、海外から移入された科学知識をどのように反映してきたか、またその作品群において描かれた生命観を海外のものと比較し、検討を行った。これまでの成果を集大成し、過去2年の間に行ってきた研究を有機的に統合させ、著作にまとめるための準備を行った。現在、再生医療研究においては、動物の体内で臓器を作成し、移植のリソースとして利用する「ヒト動物集合胚」の是非が検討されている。SFの文脈における「バイオフォビア」の源泉がどのように生じてきたのかをまとめることで、日本の生命科学の進展に寄与するものと考えられる。
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