本研究は、近代日本における戦死の表象について、とくに〈肉弾〉という観点に注目し、視覚表現と言説との双方を対象とした資料調査をもとに、実証的に考察するものである。具体的には、〈肉弾〉という言葉の生まれた日露戦争期を中心に、戊辰戦争から太平洋戦争までの戦死描写と比較するとともに、当時描かれた歴史上および海外の戦争における戦死の表象を考察の範囲とした調査分析が研究の主要な方向性である。 2013年度においては、前年度における一次資料の収集と分析を継続しつつ、対象の時代における戦死表象の調査とデータ採集、資料の考察を中心に研究をすすめた。また2月には九州地方において廣瀬・橘両軍神・知覧における特攻戦死者・長崎の戦争犠牲者にまつわる記念施設、アーカイブ、表象文化の実地調査を行った。 その成果は、8月にHuman Bullets: Images of Wounded Soldiers in the Russo–Japanese Warという題目で、The 5th East Asia Conference on Slavic-Eurasian Studies(大阪経済法科大学)において口頭発表を行った。本発表では、次の点を明らかにした。「肉弾」という言葉が流行する土台となった、軍神広瀬の”壮烈“な戦死の物語、“屍山血河”と描写される戦場と講談的英雄譚、またその戦場にもっとも肉薄した存在としての『肉弾』作家・兵士桜井忠温について考察をすすめ、その血と肉と脳漿の飛散る戦場のイメージの展開を整理した。その砕け散る肉体は、命を賭し自らの肉体を刃―砲弾にさらしてたたかう戦記物の英雄的として〈武士〉言説と、ひとを木っ端微塵に消滅させ得るエネルギーと科学の塊である近代兵器および近代戦の言説とが交わる点に横たわっている。現在以上の成果をもとに、その後の調査成果を盛り込み、論文を執筆している。
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