研究課題/領域番号 |
24720082
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研究機関 | 相愛大学 |
研究代表者 |
橋田 光代 相愛大学, 音楽学部, 講師 (20421282)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 演奏デザイン支援 / 「魅せる」の工学 / 音楽聴取における認知 / 演奏表情付け |
研究実績の概要 |
本研究は「音楽の演奏表現」を題材に、自動処理を利用しつつもデザイン自身が生成物の結果に関与でき、デザイン思考と評価を繰り返するシステムや方法論の構築に取り組む。具体的には音の並びに対して音楽的な構造を把握・構成する「音楽演奏解釈」「演奏意図の伝達・明確化」におけるインタラクションプロセスに着目している。本年度は以下の項目について実施した。 [1] 自動演奏コンサートの実施と国際学会における問題意識の共有。SAMP14(1st international workshop on computer and robotic Systems for Automatic Music Performance)において、自動ピアノによる演奏表情付けコンサートならびに研究発表とパネルディスカッションを行った。Mixtractその他によるシステム演奏と人間の演奏によるブラインド方式のチューリングテストも実施した。会期を通じて、自動演奏システムにおける演奏学習処理には、自己組織化や評価系(耳)の組み込みが重要であり、演奏評価に当たっては共通のデータセットを用意する必要があるといった点が世界的に共通の課題であることが確認された。 [2] 認知的音楽理論に基づくフレーズ聴取分析。認知的音楽理論による楽曲分析ならびにその聴取の個人差について、楽器演奏経験のある・ない20〜40代の大人およびピアノの修士号をもつ専門家を対象に、聴取を通じて認知したフレーズや聴き方などについて精細な聞き取り調査を実施した。 [3] 「魅せる」ことに着目したシステムデザインの企画セッションの実施。を設定目標とした際のシステムデザインやノウハウについて、音楽情報化学研究会(SIGMUS)において企画セッションを実施した。演者視点と観衆視点とにわけて、先行関連研究との関係を含めて実演しつつ発表をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き,演奏生成システムならびに生成音楽の評価に関する一連の知見や問題点の整理にあたった。各種学会・研究会において研究協力者や関連分野の研究者らとのクローズドな議論を中心に行ったため,情報公開としての研究発表件数は例年より少なくなったが,それらの議論はより発展的に深めることができた。その成果の一環として,2月に開催された音楽情報科学研究会/エンタテインメントコンピューティング研究会において「`魅せる'の工学」と銘打った企画セッションを実施した。昨年度に続いて,演奏生成系分野の今後の方向性を企画セッションという形で提示できたことは,今後の演奏生成系研究分野においても大きな意義があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画から述べている通り,計算機は,音響メディアと紙メディア(楽譜)をつなぎ,さらに,楽器演奏の手段としての機能を併せ持つ統合的な音デザイン環境として位置付けられる。この環境は主としてユーザの思考実験のサポートを可能とする。 次年度では,聴取を通じての演奏表現の認知・解釈に関する知見を整理し,その考察を深めつつ,これからの演奏デザインの方法論に関する情報公開を進めていく。方法としては,学会における研究発表を行いつつも,企画セッションの実施やWebページ・配布可能な冊子の作成等を重視し,より一般の社会全体に向けて演奏デザイン研究の今後の方向性を提示することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度におけるシステム開発にあたり,1)開発協力を予定していたプログラムの工程数が当初予定より大幅に増加し,継続が困難になったこと,2)並行して進めていたユーザ予備調査において,想定するユーザ層のそもそものシステム操作感覚が設計に見合っていないことが判明した。このことから,委託費を用いての開発およびインタフェース評価に伴う部分の人件費や謝金の執行を最小限に抑え,あらためて音楽認知と楽曲構造の関係,演奏生成システムの設計と評価方法について検討し直すことにしたため。「次年度使用額(B-A)」は以上の状況に該当するものである。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画では,演奏デザイン支援システムの開発と改良を繰り返し行うことで演奏デザイン方法論の構築を目指していたが,一方で,研究期間を通じて,演奏表情の認知および聴取評価に関する議論を進展させてきた。当初計画とは工程が異なったが,研究課題である演奏デザイン論の方法論の構築としては領域分野としても有益な知見が蓄積されつつある。そこで,本研究をより発展的に遂行させるため,次年度はより発展的にそれらの知見を整理した上での成果発表を主軸に行う。学会・研究会での発表のための旅費・参加費用として70万円,一般公開資料として,冊子・Webページ等の印刷費・資料作成代として50万円を充てる予定である。
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備考 |
(1) 1st international workshop on computer and robotic Systems for Automatic Music Performance (SAMP14) において実施した自動ピアノコンサートのプログラム。
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