本研究では視覚芸術におけるトラウマの歴史とその表現について考察した。トラウマが心理ケアの方法として用いられてきた歴史は長い。戦争神経症やシェルショックが問題とされた第一次世界大戦前後にはじまるが、1980年代以降のPTSDへの関心にあわせて、芸術家はパフォーマティブな参加芸術に取り組むようになり、芸術批評やキュレーションの課題になった。本研究ではトラウマに取り組む具体的な芸術家の実践と理論を検証した。トラウマ的な歴史の記憶を視覚表現で再構築しすることで、個人の記憶のみならず集合的記憶としてともに美的に感受される。視覚芸術の歴史と理論の理解は、将来のトラウマの心理ケアの可能性につながる。
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