研究課題/領域番号 |
24720086
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館 |
研究代表者 |
米田 尚輝 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, その他部局等, 研究員 (50601019)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
本年度は、1923年に画商のレオンス・ロザンベールによってパリのエフォール・モデルヌ画廊で企画された「デ・ステイルの建築家たち(オランダ)」展を中心に調査を進めた。この展覧会は、1917年からオランダで活動していた芸術家集団デ・ステイルがフランスの公衆へ広く紹介される契機となったという点で重要である。また展覧会史的な見地から顧みれば、1932年にニューヨーク近代美術館において建築史家ヘンリー=ラッセル・ヒッチコック、建築家フィリップ・ジョンソン、そしてニューヨーク近代美術館ディレクターのアルフレッド・バーJr.らによって企画された「モダン・アーキテクチャー」展とともに、建築に関する展覧会の嚆矢のひとつとして位置づけられる。 こうした背景から研究代表者は、「デ・ステイルの建築家たち、オランダ」展において展示されたデ・ステイルの芸術家たち、とりわけファン・ドゥースブルフの作品群のうちに、遠近法に基づいた描画手段のひとつである軸測投影(axonometric projection)がもたらす美的効果に着目した。本年度に刊行した論文「軸測投影の来歴と一九二〇年代フランスの前衛 :オーギュスト・ショワジー、ル・コルビュジエ、テオ・ファン・ドゥースブルフ」においては、軸測投影の来歴を建築史において遡り、その美的性質が1920年代のフランスにおける諸芸術にもたらした影響を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる対象となるのは、軸測投影を実用するとともに公衆へ広く普及させたフランスの建築技師オーギュスト・ショワジー(1841-1901)、フランスを中心に活動したスイス人の建築家ル・コルビュジエ(1887-1965)そして、オランダに発足した芸術家集団デ・ステイルの主導者のひとりテオ・ファン・ドゥースブルフ(1883-1931)である。1898年にショワジーは、古代からの建築史を構造や構法といった建築生産的な観点から『建築史』(全二巻)を刊行している。本研究では、この書物に差し込まれている多くの軸測投影による建築図面を、ル・コルビュジエをはじめとする近代建築家たちの構造に対する関心の霊感源として位置づけている。一方、とりわけ1920年代フランスにおける建築、絵画、デザイン等の多様な表現形式においても、軸測投影のグラフィカルな特性が確認される。こうした背景から本年度は、従来の研究では深く掘り下げられてこなかった軸測投影の美的性質を明確化するとともに、1920-30年代におけるル・コルビュジエとファン・ドゥースブルフを中心とした芸術家たちの活動のうちに潜在する軸測投影の立ち現れ方を追跡した。本年度に刊行した論文「軸測投影の来歴と一九二〇年代フランスの前衛:オーギュスト・ショワジー、ル・コルビュジエ、テオ・ファン・ドゥースブルフ」においては、ファン・ドゥースブルフが軸測投影を建築設計の手段としてだけではなく、ひとつの知覚の様態として捉えていたという結論を導くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては引き続き、1920-30年代のル・コルビュジエとファン・ドゥースブルフの活動を調査する。ル・コルビュジエに関する主たる資料体、すなわち絵画、彫刻、デッサン、図面、書簡等は、ラ・ショー=ド=フォン工芸学校付属図書館(ラ・ショー=ド=フォン、スイス)、ル・コルビュジエ財団(パリ、フランス)、ニューヨーク近代美術館(ニューヨーク、アメリカ)に所蔵されている。またファン・ドゥースブルフおよびデ・ステイルの芸術家たちに関しては、デン・ハーグ市立美術館(デン・ハーグ、オランダ)が作品群の巨大なコレクションと、膨大な関連資料アーカイヴを構築している。 また、本研究の計画内容と進捗状況を再検討したところ、オランダ、フランス、アメリカを跨いで活動したデ・ステイルの美術家ピート・モンドリアン(1872-1944)の営みをより精緻に考察する必要性が高まった。したがって今後は、ル・コルビュジエとファン・ドゥースブルフに加えて、モンドリアンを含めた芸術家のネットワークを調査する予定である。また、スイス、フランス、オランダの上記各都市に散在しているル・コルビュジエ、ファン・ドゥースブルフ、モンドリアンらの関連資料を網羅的に精査すべく、ヨーロッパへの在外調査を計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費のうち、一回あるいは複数回にわたっての海外調査へ当てる予定である。時期および回数は未定であるが、渡航先は以下の4つの美術館・研究機関のうちいずれかになる予定である。すなわち、1)ラ・ショー=ド=フォン工芸学校付属図書館(スイス、ラ・ショー=ド=フォン)、2)ル・コルビュジエ財団(フランス、パリ)、3)ニューヨーク近代美術館(アメリカ、ニューヨーク)、4)デン・ハーグ市立美術館(オランダ、デン・ハーグ)である。本研究の対象となる芸術家たちの関連資料は、上記の4研究機関に集中的に収められている。 また、英語圏、フランス語圏、オランダ語圏におけるデ・ステイルの関連書籍と、調査にもとづいて必要とされる複写費用も必要とされる。とりわけピート・モンドリアンに関する研究資料はまだ十分に渉猟できているとは言えないので、集中的に調査する予定である。その一方で、収集した資料体を整理するために、デジタル機器の購入も検討している。すなわち、複写した文献、あるいは写真等のイメージを効率的にアーカイヴするために必要なパソコンである。また、それらをスキャンしてデジタル化するために必要とされる複合型のスキャナーも購入する予定である。
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