本研究の主たる目的は、遠近法のひとつである軸測投影の来歴を歴史的に追跡すること、その美的効果が1900-1930年代の西欧の美術と建築における近代性の成立に寄与した射程を見極めることである。平成24年度では、フランスの建築家オーギュスト・ショワジー(1841-1909)から、スイスの建築家ル・コルビュジエ(1887-1965)にいたるまでの軸測投影の歴史的変遷、およびにモダニズム建築おける軸測投影の適用を検証した。平成25年度では、オランダの芸術運動デ・ステイルのテオ・ファン・ドゥースブルフ(1883-1931)とピート・モンドリアン(1872-1944)とのあいだでの、芸術ジャンル優位論における軸測投影の影響を検証した。以上の研究成果をふまえ、平成26年度は、フランスで活躍したスイス出身の美術家ゾフィー・トイバー(1889-1943)の仕事を検証した。トイバーは主として造形作品を制作していたが、劇場用のマリオネット制作、ダンス、建築、そして雑誌の編集も手がけており、その活動はきわめて多彩であった。それゆえ、トイバーに関する先行研究においては、その表現形式の多様さゆえに各々の芸術ジャンルに限定した考察がなされてきた。こうした研究動向をふまえ、本研究は、トイバーの活動のなかでも関連性が低いと考えられてきたダンスと建築に着目し、これらに共通する芸術原理を軸測投影の役割に沿いつつ考察した。この考察は、論文「ゾフィー・トイバー:1910-20年代のデザイン理論」にまとめられた。本論文では、トイバーにおけるダンスと建築という異なる表現形式のなかに、軸測投影の効果から派生する知覚様態が一貫して通底していることを明らかにした。
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