昨年度に中世文学会にて口頭発表を行った成果をもとに、「中世文学」に「披講を前提としない和歌の詠作と鑑賞態度について」を掲載した。本論文は室町期古記録と歌論歌学書類における「見」と「読」の記述の使い分けに着目しつつ、参会・披講を伴わなずに行われた和歌活動において、声を伴わない「見」によって作品の鑑賞がなされていたことを指摘した。その上で、その和歌活動の中で詠作された和歌は声として享受されることを前提とした構成の作品が少なからず見出せることも指摘し、この時代における作風と鑑賞態度について論じたものである。 また、前年度から継続していた和歌会部類記の伝本調査の整理・分析の成果を踏まえて、和歌文学会例会にて「和歌会部類記について」と題して口頭発表を行った。本発表は、計20種類の和歌会部類記の伝本紹介と所収古記録の整理分析を基礎作業として行い、それらの中にはこれまで注目されていなかったと見られる和歌会関連の記事が所収されていることも指摘した。さらに和歌会部類記の分析として、これらの書には頭書や見出しを付すものも少なくないことから、編纂目的は実際に和歌会を行うにあたっての先例の収集が主な目的であったと見られることを指摘した。また、このことは即ち、和歌会部類記に収められた記事は、後代において先例として意識された会についてのものであったとも言える。以上を踏まえて、和歌会部類記に特に豊富に収められている鎌倉・室町期に内裏・仙洞で行われた和歌会について、特に「中殿御会」と「三席御会」についての記事の分析も併せて行った。以上の研究成果は今後随時論文としてまとめて発表する予定である。
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