研究課題/領域番号 |
24720093
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金光 桂子 京都大学, 文学研究科, 准教授 (30326243)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 室町物語 / 中世王朝物語 / しのびね型 |
研究概要 |
当該年度は、主として『しぐれ』永正十年絵巻と『あきぎり』の関係について考察を深めた。両作品の本文を精査した結果、①『あきぎり』の文章中、従来解釈の定まっていなかった「つらからばさてはあらで、かけ離れなむはさすが恋しくおぼえ給ふ」という部分が、『しぐれ』の和歌「つらからばさてもあらばやと思へどもなど今の間も恋しかるらむ」を引いている可能性があること、②『しぐれ』が複数の箇所において、『あきぎり』の文章を簡略化しつつ取り込んでいることなどを明らかにした。 『しぐれ』と『あきぎり』の影響関係についてはすでに指摘のあるところだが、新出の永正十年絵巻に拠ることで、その関係がより密接になったばかりでなく、『しぐれ』から『あきぎり』、②『あきぎり』から『しぐれ』という、一見相矛盾する引用関係が浮かび上がった。こうした現象は、中世王朝物語から室町物語への連続性を保証する一方、その展開が必ずしも直線的なものはないことをも示唆し、その複雑な関係を解明する重要な手がかりとなることが予想されるものである。また、『あきぎり』との近似性によって、永正十年絵巻が『しぐれ』諸本の中で最も古態を保った本文であることを再確認できた。 平行して、『しぐれ』『雨やどり』両作品の諸本調査を進めた。東洋文庫、東洋大学図書館、国会図書館、国文学研究資料館等へ調査に赴いて伝本を実見するほか、写真版や複写を入手し、本文および挿絵の整理と比較分析を順次行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『しぐれ』永正十年絵巻の本文を注釈的に精読し、『あきぎり』との影響関係を洗い出すという当該年度の計画は、おおよそ達成した。ただし、上記①②に見られる矛盾を解決するには至っていない。その要因としては、予想以上に両者の関係が複雑であったこと、また、①に挙げた「つらからば」歌が、室町期の複数の文献に類歌の見られる歌であることがわかり、その整理と考察を先に済ませる必要が生じたことが挙げられる。 『しぐれ』『雨やどり』両作品の諸本調査もおおむね順調に進んでいるが、当該年度に調査予定であった静嘉堂文庫、大東急記念文庫については、スケジュール調整がうまくゆかず、いまだ果たせていない。
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今後の研究の推進方策 |
『しぐれ』『雨やどり』諸本の調査を続行する。資料がほぼそろったところで、『雨やどり』諸本を整理し、最も原型に近いと思われる本文を確定する。その本文に基づいて、『雨やどり』の成立時期や王朝物語からの影響について検証し、『木幡の時雨』や『しぐれ』との比較考察を行う。 『しぐれ』についても、『あきぎり』との関係についてより明確な結論を導き出した上で、改めて諸本の関係を考察する。最後に、以上の成果をすべて踏まえ、王朝物語から室町物語に至る〈しのびね型〉物語史の記述を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、静嘉堂文庫、大東急記念文庫、慶應義塾図書館、学習院大学図書館、日本大学図書館、岩瀬文庫、蓬左文庫等での資料調査を予定しており、その出張旅費および文献複写・撮影費として使用する。また、収集した資料整理・保存のためのプリンタと電子メディア、関連する図書(主として中世王朝物語・室町物語の本文テキスト)の購入にあてる。
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