本研究課題は、室町時代の抄物『黄氏口義』に、どのような禅僧の説が流入し、またかれらがどのような内外の参考書でもって学んでいたのか、ということを調査し、体系化することを目的としていた。そしてそのための手段として、『黄氏口義』に登場する禅僧や彼らの著作を中心とした人名・書名索引を作成することを計画していた。 2014年3月31日、『引用人名・書名より見る『黄氏口義』の学史・文化史的意義研究成果報告書』を作成し、研究成果として報告した。この報告書は、【解説篇】として『黄氏口義解題』を、また【索引篇】として「黄氏口義人名書名索引」を含むものであり、当初の目標は計画通り達成された。 今回作成した人名・書名索引は、研究期間や予算などの制約もあり、五山僧関係に限定されたものである。しかし彼らの説の基盤にあるのは、言うまでもなく、中国で作成された注釈や、舶来の学説である。しかもこれまでの研究から、禅僧達の多くは、史書や四書五経を直接参照していたのではなく、『事文類従』や『詩人玉屑』などの類書を参照していたことが判明している。どのような類書がよく使われたのか、ということは、当時の学問がどのようなものであったか、ということをより鮮明に明らかにすることにつながるであろう。これらは、今回の研究に含めるには至らなかったが、今後の課題として継続的に取り組むことが望まれるものである。 以上、本研究課題の成果をまとめて言えば、抄物という資料を多くの分野の研究者に開かれたものとし、五山禅僧達の学問的交流や相互の関係をあきらかにする基盤を整備したこと、そして、そのようなものとして抄物という資料をとらえ直すきっかけとした、ということになる。研究代表者は、それが、国語学的な見地からはもとより、文化史的・学史的にも、大きな意義を有すると信ずるものである。
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