研究課題/領域番号 |
24720096
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
大石 真由香 奈良女子大学, 古代学学術研究センター, 協力研究員 (40624060)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 万葉集 / 藤原惺窩 / 北村季吟 / 万葉拾穂抄 / 禁裏御本 / 陽明文庫 / 中院本 |
研究概要 |
近世初期における地下の『万葉集』研究と、堂上での『万葉集』書写・利用への動きは、互いに影響しあって一時代の受容の様相を形作っている。本研究は堂上での書写本を中心に、近世初期における堂上・地下双方の『万葉集』受容の様相を把握し、その全体像を解明すべく、文献学的方法で検討するものである。平成24年度の研究実績は以下の通りである。 I、『万葉拾穂抄』と惺窩校正本『万葉集』について 北村季吟の『万葉拾穂抄』の底本は、藤原惺窩が校訂したとされる、所謂「惺窩校正本」である。当該年度中、惺窩校正本『万葉集』の一本である東洋文庫所蔵「白雲書庫本」を現地調査し、すでに手許にある天理図書館所蔵本の影印と照らし合わせ、惺窩校正本本文の異同を確認した。その上で、万葉集写本において特殊とされるこの本を、季吟が如何なる基準によって採否したのかを考察した。季吟は首尾の整った正統な伝本として惺窩校正本を尊重するが、和歌のことばとして不適切な部分は流布本によって改めている。季吟の本文校訂は首尾が整い、和歌として完成度の高い『万葉集』を作り上げることを目的としていると考えられる。冷泉家出身で堂上歌人とも関わりのあった藤原惺窩の『万葉集』利用と、地下の研究者である北村季吟の『万葉集』研究との接点がここに表れていると言える。 II、陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」における禁裏御本書入について 陽明文庫所蔵にかかる「古活字本万葉集」の紫書入は、中院本系諸本の代赭書入と同様、禁裏御本由来のものであり、さらに禁裏御本からの直接書入の可能性をもつ唯一のものである。当該年度中は、すでに調査を終えた巻一、二について、紫書入と京大本代赭書入との対照表を作成し、他の諸本にこれと同じ訓を持つ本があるかどうかを『校本万葉集』によって調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は、新たに奈良女子大学教務補佐員、および摂南大学非常勤講師としての職を得た。そのため、当初の予定のように平日に実地調査を行うことが困難となった。 このことから、陽明文庫への定期的な現地調査は先送りにし、長期休暇を利用して集中的に調査を行える東洋文庫所蔵本の調査に切り替え、研究を進めた。一方、陽明文庫所蔵本については、前年度までに調査を終えている巻一、二について京大本との校異表を作成し、『校本万葉集』によって補うという、研究機関での進行が可能な作業を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
I、陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」における禁裏御本書入について(つづき) 陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」巻三から巻二十の調査を行い、全巻調査を終えることを目指す。この調査はすべて、陽明文庫に赴いて行う。そして、中院本系統本の代表たる京都大学附属図書館本(京大本)の禁裏御本書入箇所との校異表を作成する。この際、特に異同のあった箇所については、他の中院本系統諸本についても『校本万葉集』等を参考に調査を行い、それが京大本のみの誤写であるのか、中院本系統諸本に共通して見られる異同であるのかを確認し、このうち後者について精査する。陽明文庫における現地調査を行わない日にこの作業を進める。 現地調査の進行が芳しくない場合にも、調査結果の方向性をまとめ、平成25年度内に研究会に発表することを目指す。 II、岩瀬文庫本『万葉拾穂抄』巻四の翻刻 岩瀬文庫には北村季吟の著した『万葉拾穂抄』の自筆稿本巻一・四が所蔵される。申請者はすでに巻一を翻刻し公表したが、巻四は未だ世に出ていない。今年度、巻四を翻刻するにあたり、文献学に詳しい講師の指導を受けながら正確に行う。平成25年度前期までに翻刻作業を終え、奈良女子大学日本アジア言語文化学会紀要『叙説』への投稿を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
① 当該年度は、新たに奈良女子大学教務補佐員、および摂南大学非常勤講師としての職を得たため、当初の予定のように平日に実地調査を行うことが困難となった。そのような理由から、当初予定していた平日の出張を大幅に減らし、長期休暇を利用した出張のみとなった。そのため、旅費分の未使用額が発生した。 ② 25年度は、長期休暇を利用して東京にある国文学研究資料館、東洋文庫などに出張して調査を行い、『校本万葉集』での調査に正確性を持たせる。また、非常勤先の授業日数が減る後期(10~3月)を中心に定期的に陽明文庫に赴き、「古活字本万葉集」巻3以降の全巻調査を進める。関係する『万葉集』諸本調査の時間的制約に対応するため、可能な限りマイクロフィルム紙焼を得ることとする。 また、岩瀬文庫本『万葉拾穂抄』巻四の翻刻にあたっては、文献学に詳しい講師の指導を受ける。
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