本研究は、『万葉集』の受容の様相について、本格的な『万葉集』研究の始まる近世初期に目を向け、この時代の『万葉集』の書写活動と注釈・研究活動のありようを検討するものである。前年度まで「若手研究B」の経費で行っていた陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」禁裏御本書入の全巻調査を、「特別研究員奨励費」によって引き継いだことにより、「若手研究B」では、当初の予定以上の成果を上げることができた。平成26年度の業績は以下の通りである。 1,『万葉集』巻十七・三九三二歌について、現存写本の調査を通じ、仙覚以来定訓とされていた訓に問題があることが分かった。そして、次点本である元暦校本の訓に立ち返るべき可能性について指摘した。 2,近世初期の儒学者・藤原惺窩が独自に改変を加えたと目される所謂「惺窩校正本」についての調査を行い、前田家一本(尊経閣文庫所蔵)・八雲軒本(國學院大学所蔵)・白雲書庫本(東洋文庫所蔵)の写本(完本)三本の比較から、惺窩校正本の成立過程を明らかにした。 3,2に関わって、歌本文に及ぶ大幅な改変が行われている巻五・800歌について、仙覚本との比較から、惺窩校正本による解釈を試みた。 今後、2、3の二点について論文化し、さらに平成24~25年度の成果および、博士論文「近世初期における万葉学のあり方について―北村季吟『万葉拾穂抄』を基礎に―」による成果と合わせ、書籍化を目指して科学研究費助成事業「研究成果公開促進費」への応募を予定している。
|