研究概要 |
本研究は近世後期から幕末・近代初期における文芸の中で特に和歌に焦点を絞り、京都の堂上家と島津家との関係を一つの軸とする和歌史を解明し、京坂の歌壇から近代初期の御歌所へと繋がる薩摩藩歌人の文事・教育・人脈を解明することを目的とした。 今年度は資料収集および研究環境を整備することに重点を置き、江戸時代の一次資料購入やデータ処理のためにノートPCを購入した。このように次年度以降の精査に備えるとともに、台湾大学図書館所蔵『長沢伴雄自筆日記』24冊の出版準備を進めた。当該年度に発表した論文として以下の単著2点を挙げる。 「近世後期『枕草子』研究一斑」(「雅俗」第11号,pp.30-44,雅俗の会,平成24年6月)、「紀州藩蔵書形成の一側面―伴信友と長沢伴雄―」(「アジア遊学」155号,pp.180-189,勉誠社,平成24年7月) 前者は近世後期に行われた『枕草子』研究の一端を解明したものである。台湾大学長澤文庫に残る資料と日本国内での調査を合せて、従来漠然としていたこの時期の『枕草子』研究について、資料の相互貸借や書入れ書写の過程を詳細に論じ、近世後期の文事の解明を一歩進めることができたと考えている。後者は同様に台湾大学所蔵の資料を用い、紀州藩の蔵書蒐集事業を通じて知遇を得た紀州藩士長沢伴雄と小浜藩士伴信友との学問的な交流を浮き彫りにした。これによって同時代の国学者たちの学問のやり方や資料収集の様相を伺うことができたと考える。 なお当該年度に『枕草子春曙抄』を購入しているが、これは前者論文に取り上げた資料で研究代表者未見の自筆書入れ資料であったが、当該年度の補助金によって購入することができた。
|