二〇一五年度は、三年計画の最終年にあたる。 本研究では、Ⅰ「馬琴の治国思想と垂加神道」、Ⅱ「馬琴の尊皇思想とその影響」、Ⅲ「馬琴の歴史認識と国境意識」の三側面からのアプローチを試みた。最終年度は、データ・資料収集と分析を引き続き進める一方、論文2本(うち一本は掲載予定)、翻刻・注釈1本(掲載決定・刊行待ち)の執筆、口頭発表2回を行った。 Ⅰ・Ⅱの側面に関しては、大きく信仰・思想に関わる内容として、「馬琴の日常」と題し、黄表紙に表れた、馬琴の日常の信仰について発表を行った。馬琴の治国思想は卜占との関係も見過ごせないが、これに関わる作品として黄表紙『安倍清兵衛一代八卦』の翻刻と注釈を行った。これによって、読本における卜占の趣向との比較を行い、考察を深めることができた。また、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲに関わる内容として、「馬琴の古典再解釈」と題して口頭発表を行った。この発表内容については、二〇一六年度中の論文執筆を予定(掲載予定)している。神話・古典を馬琴が読本等の作品中でどのように利用・解釈しているかの検討を通じて、古代史に対する歴史認識をはじめ、その歴史認識に基づいた治国思想・尊皇思想について言及する予定である。 その他、Ⅲに関しては、馬琴以外の文政期読本の調査を通じて、馬琴の歴史認識について客観的に捉え直す方法を取り入れたが、その成果の一部として、6作品の解題を完成させる他、馬琴読本の影響を受けた作品を取り上げ、その作品の意義について論文を執筆した。
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