研究課題/領域番号 |
24720104
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
五味渕 典嗣 大妻女子大学, 文学部, 准教授 (10433707)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / アジア・太平洋戦争 / 日中戦争 / メディア / プロパガンダ / 戦争文学、戦記テクスト |
研究概要 |
2012(平成24)年度は、研究の始発・離陸期と位置付け、アジア・太平洋戦争期の「戦争」にかかわる表現の具体的な事例と、その表現を規定する政治的・社会的・文化的な要因を明らかにすべく、以下(1)~(4)の活動を行った。 (1)日中戦争期・太平洋戦争期戦記テクスト資料の収集・調査・解析。とりわけ、アジア・太平洋戦争期の戦記テクストに決定的な影響を与えたテクストである『生きている兵隊』(石川達三)・『麦と兵隊』(火野葦平)に注目、関係資料を収める同志社女子大学図書館と北九州市立図書館に出張、調査を行った。また、文学テクストとの比較という観点から、同時代の「国策映画」にも注目、メロドラマ的な想像力のプロパガンダへの流用について、考察した。 (2)内閣情報部・情報局、陸軍省・海軍省・外務省など情報当局による1940年代の情宣政策・プロパガンダに関する検討。戦記テクストの表現を規定する政治的背景として、当該時期の「国内思想戦」「宣伝戦」にかかわる言説に注目、関連資料の集積と検討を行った。その際、日中戦争の情報戦争としての特質に注目、各種メディアにおいて、対外的な情宣政策と日本国内の言論統制とが連動していることを確認した。 (3)国際的・学際的な研究ネットワークの構築。各種学会、研究集会への参加やインターネットでの活動を通じて、関心を共有する国内外の人文社会科学の研究者と対話を重ね、本研究課題の問題意識を深化させた。 (4)研究成果の発信。9月に行われた第4回日韓国際検閲会議に参加、(1)で行った調査を踏まえ、南京作戦以後の検閲・言論統制と戦記テクストとの関わりをとりあげた研究発表を行い、その発表にもとづく論文を執筆した。また、本研究課題が対象とする時期に対する新たな視座を構築するために、戦前・戦時・戦後をまたぐテクストである川端康成『雪国』の分析を行い、その成果を論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012(平成24)年度は、当初予定していた研究計画をおおむね順調に進めることができたと認識している。その要因としては、以下の(1)~(3)を挙げることができる。 (1)本研究課題は、2009-2011年度に受給した科研費研究課題「《文学》の生存戦略――戦時下日本語文学の再審に向けて――」(若手研究(B)、課題番号21720074)を発展・深化させたものであり、その際に収集・調査した資料をもとに、具体的かつポイントを絞った資料収集と調査を展開することができた。また、同じ理由で、すでに問題意識と関心の重なる国内外の研究者との連携を積み重ねてきており、一定の研究環境がすでに整った中で研究を離陸させることができた。 (2)経費の効率的な使用という観点から、年度当初に予定していた国外出張をとりやめた代わりに、京都市・北九州市での資料調査を丹念におこなった結果、対外宣伝と国内の言論統制との連動性という、本研究課題にとって重要な視座を得ることができた。また、日中戦争期の「国策映画」との比較検証から、今後の研究の拡がりを確認することができた。 (3)各種学会・研究会や、所属研究機関の付属研究所における大学院生共同研究プロジェクトへの参加を通じて、本研究の問題意識を深化・発展させるだけでなく、2013年度以降の研究に接続する人的ネットワークを新たに強化することができた。結果、2013年度以降、科研費課題「朝鮮近代文学における日本語創作に関する総合的研究」(基盤研究(B)、課題番号25284072、研究代表者:波田野節子)の研究分担者として参加することになり、問題意識や対象の重なる本研究課題との緊密な連携を期待することができる。
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今後の研究の推進方策 |
2013(平成25)年度は、所属研究機関から国内研修(研修先:慶應義塾大学)を認められている。そこで、受け入れ先研究機関に協力をいただき、慶應義塾大学三田メディアセンターが多く所蔵するアジア・太平洋戦争期の戦争文学・戦記テクストの調査とデータ収集を集中的に行い、その特質と偏りを明らかにする。また、戦記テクストのデータベースを構築、研究資料としての公開を目指す。 また、2013(平成25)年度は、本研究課題の研究協力者であるエドワード・マック准教授(ワシントン大学)が国際交流基金フェローとして滞日されることが決定している。出張旅費を節約できるこの機会に、他の国内外の研究協力者と連携しつつ、共同研究やワークショップ開催など、問題意識の深化と研究成果の発信につとめたい。 その他、所属研究機関の所蔵資料、受け入れ先研究機関の所蔵資料だけでなく、国内・国外の資料調査を積極的に行い、言論統制や情報メディア統制にかかわる各種資料の収集と解析、アジア・太平洋戦争期の地域新聞の言説調査などを行い、戦時体制下の日本語による「戦争」表象について、複数の視座から総合的に検証することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012(平成24)年度分の研究費に関しては、(1)年度末に発注した消耗品の一部に割引価格が適用されたことと、(2)科研費での購入を計画していた書籍が在庫切れとなっていたことによって、当初予定していなかった残額が発生した。 2013(平成25)年度については、当該年度の請求分として計上した金額を、主に調査出張関係費(旅費・資料複写費)と研究協力者への謝金(講演料・翻訳関係経費)、書籍や文献資料の購入にかかる経費を軸にバランスよく配分しつつ、2012年度分の残額を文具類やデータ集積にかかる諸経費等に計上、効率的かつ計画的に使用する。
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