研究課題/領域番号 |
24720104
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
五味渕 典嗣 大妻女子大学, 文学部, 准教授 (10433707)
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キーワード | 国際研究者交流 韓国 / 国際情報交換 中国 / アジア・太平洋戦争 / 日中戦争 / メディア / プロパガンダ / 戦争文学・戦記テクスト |
研究概要 |
2013(平成25)年度は、研究の発展・展開期と位置付け、アジア・太平洋戦争期の戦争と戦場の表象・表現にかかわる文字テクストや映画の調査・分析を軸とする、以下の(1)~(3)の活動を行った。 (1)日中戦争期・アジア太平洋戦争期の戦争文学・戦記テクスト関係資料の収集・調査・解析。国立国会図書館、日本近代文学館、慶應義塾大学図書館などの所蔵調査から、1937-1941年に新聞・雑誌メディアに掲げられた戦争文学・戦記テクストの網羅的な調査を行い、関連年表を作成した。また、それらの言説の検討から、同時代の戦場を描く表現の言語的特質について検討、その成果を論文として公表した。 (2)主に日中戦争期の戦争文学・戦記テクストと軍・情報当局の「思想戦」「宣伝戦」との関連についての検討。前年度までに蓄積した資料の分析をもとに、当時の陸軍が日本語言説の翻訳・流通可能性を前提に情報宣伝戦略を立案していたこと、1938年の武漢作戦時に計画・実施されたいわゆる「従軍ペン部隊」が、「国内思想戦」の一環として企画されていたことを明らかにした。 (3)関連する研究課題・研究プロジェクトとの連携。研究分担者として参加している科研費プロジェクト「朝鮮近代文学における日本語創作に関する総合的研究」(基盤研究(B)、研究代表者:波田野節子)での活動のほか、原爆文学研究会、昭和10年代/1940年代文学研究会など、戦争・戦場の表象や戦時期の文学・文化・思想に関心を寄せる研究者グループのプロジェクトに積極的に参加した。11月には韓国・ソウルで行われた学術会議「下からの綴り方、他者の文学」で研究発表、内外の研究者との交流を深めることで、学際的・国際的な研究の進展に向けた環境を整えた。また、戦時期におけるメディア統制と戦後の核関連広報との類似性に注目、実際の施設視察や関連言説の調査を行い、その成果を論文化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2013(平成25)年度は、当初の計画以上に研究の進展をはかることができたと認識している。その要因として、以下の(1)~(3)を挙げておく。 (1)2013(平成25)年度に、所属研究機関から国内研修(研修先:慶應義塾大学)を認められたことで、研修先の有する豊富な研究資源を活用した基礎的な調査を集中的に進めることができた。また、研究活動を優先できる環境を活かし、課題に関わる調査出張を複数回行うことで、必要な資料を集積し、解析を進めることができた。 (2)前年度までに構築した人的なネットワークを通じて、研究資料の蓄積や、隣接する学術領域の研究動向を効率的かつ効果的に得ることができた。本研究課題が対象とする時期の検討には、文学・文化研究だけではなく、研究対象の重なる歴史学・社会学・映画研究といった領域や、問題意識を共有する韓国・台湾・中国の研究者との協働が欠かせない。インターネット上の交流をふくめ、多くの研究者との連携から、数々の示唆を得ることができた。 (3)本研究課題が対象とする時期区分のうち、とりわけ日中戦争の戦線拡大期(1937-39年)に着目することで、日本と中国との戦争がまぎれもなく情報戦争であったこと、文学・文化もそうした問題と無縁ではありえなかったことを明らかにできた。とりわけ、アイコンとしての火野葦平が果たした役割に注目、日中戦争期の文学・文化を考える新たな視野を切り拓くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題としての最終年度に当たる2014(平成26)年度は、これまでの研究活動を総合し、具体的な研究成果として発信していくことが最大の目標となる。とくに、2013(平成25)年度に集中的に取り組んだ日中戦争期戦記テクストの文学史的・思想史的な位置付けを明確化し、1930年代から40年代にかけての日本語の文学表現と戦争とのかかわりについて考察を加える他、同時期の戦争文学・戦記テクスト年表データベースの構築を行っていく。 また、戦時下の文学・文化を実際に生きた書き手のテクストにかかわる個別的な検討も重要である。本研究課題の中で行ってきた石川達三・火野葦平・小林秀雄らの関連資料調査を継続・深化させ、この時期の文学・文化状況を多角的に考える研究の基盤づくりに貢献したい。 その他、これまで同様、研究対象や問題意識を共有する国内外の研究プロジェクトに積極的に参加することで、今後の個人研究・共同研究に接続する新たなテーマの絞り込みと具体化につとめたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013(平成25)年度分の研究費に関しては、(1)学生アルバイトを雇用する資料調査・収集を集中的に行うことで経費の節減に努めたことと、(2)国内研修先の図書館資料を活用することで資料収集費にかかる経費を抑えたことで、当初予定していなかった残額が発生した。 2014(平成26)年度分については、前年度に生じた残額も含め、(1)研究環境のアップデートのための設備・備品の購入と、(2)調査出張関係費(旅費・資料収集費)に主に配分することで、研究課題の総仕上げを意識した、合理的かつ効率的な研究費の使用につとめたい。
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