2014(平成26)年度は、研究課題の総合・完成期と位置づけ、とくに本研究の今日的な意義の積極的な発信を意識しながら、以下の(1)~(3)の活動を行った。 (1)前年度に引きつづき、日中戦争期・アジア太平洋戦争期の戦争文学・戦記テクスト関連の資料の集積と分析を進めた。2014年度は調査対象をグラフ・ジャーナリズム誌まで拡大、南京戦以後の対外宣伝工作と国内の言論統制の連動性を改めて確認した。また、新聞や雑誌などの言説資料をより立体的に検証するために、北九州市立図書館寄託火野葦平資料等、個々の書き手レベルの書簡やメモ類の調査を進めた。2014年6月には、こうした作業の成果として編著『モダン都市文化96 中国の戦線』(ゆまに書房)を刊行した。 (2)本研究課題の展開可能性と歴史的な位置づけを検討した。これまでの研究成果をもとに、戦後日本社会における戦争記憶の形成と表象のあり方について考察、ワシントン大学でのラウンドテーブルで報告「日本における〈戦争の記憶〉の現在形」を行った。また、2000年代以降にアメリカやイスラエルで将兵として従軍した著者の証言や手記を集積、日中戦争・アジア太平洋戦争を描いたテクストとの比較を行うことで、戦場を書くことにかかわる原理的な問題への省察を深めた。その成果の一端は、台湾での国際ワークショップ「日本近現代文学・文化研究の最前線」で報告した。 (3)本研究で得られた着想や資料をもとに、従来の戦時体制期にかかわる文学・文化研究の再審を試みた。具体的には、小林秀雄の日中戦争初期の発言に注目、小林が中国体験の以前と以後で明らかに戦争に対する立論を変化させていることを指摘した。また、「昭和10年代における文学の〈世界化〉をめぐる総合的研究」研究会に参加、日中戦争期の文学言説の場の再編について、問題意識を共有する研究者と議論を積み重ねた。
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