今年度は、玉屋謡本を光悦謡本と元和卯月本と比較検討し、本資料の謡本史の位置づけを検証するという本研究の中心的課題に取り組んだ。結果、以下の2点について明らかになった。 一つは古活字玉屋本の性格である。従来の研究では、古活字玉屋本は玉屋謡本の嚆矢であり、これを代表する本であると理解されていた。しかし、光悦謡本・元和卯月本との全曲比較調査を行なった結果、古活字玉屋本は光悦謡本系統というべき本であることが明らかになった。つまり、古活字玉屋本は「玉屋本」という呼び方自体が適切ではなく、光悦謡本の異本と捉えるべき資料なのである。この調査結果は、これまでに謡本研究の見解の再検討を求める重要な指摘であると確信している。 二つ目、整版玉屋本の位置づけである。この資料も光悦謡本・元和卯月本との全曲比較調査を行ない、従来「光悦本と卯月本の中間的性格」と評されていたその性質を具体的に把握することができた。すなわち、「中間的」というよりは重要な差異は卯月本と一致することが多いことと、玉屋本独自の詞章が決して多くなく、玉屋謡本のオリジナリティは希薄であることなどが明らかになった。この調査結果はどのように理加記すべきかは、今後さらに考察する必要があるが、「玉屋本」という系統で把握することは難しいと考えており、謡本史の再考する上での重要な情報を集めることができたと考えている。 これらの研究成果は野上記念法政大学能楽研究所・能楽の国際・学際的研究拠点主催に謡本研究会(2014年12月26日)で発表した。また論文としては、能楽研究所紀要『能楽研究』に2回に分けて発表する予定になっている。
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