研究課題/領域番号 |
24720111
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
藤川 玲満 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 講師 (20509674)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国文学 / 近世文学 / 出版 / 秋里籬島 |
研究概要 |
本研究は、近世中後期上方における作者(文学者)達の相関、及びこれと密接に関わる出版界の動態と、その影響下、この変動期に特質的な文学作品・書物が生成された在り方を解明することが目的である。本年度は主として、後期読本史に深く関わると考えられる秋里籬島の初期小説について、近似する作品との交渉の在り方および設定や筋書を精査することから形成方法の実態を解明する調査研究を行った(論文「『忠孝人竜伝』考」)。読本『忠孝人竜伝』の著述・出版は、一連の名所図会が続刊される事態に先立つ時期にあたり、この成り立ちを明らかにした上に、籬島の前作小説『信長記拾遺』および後年の作品群との関係、そして同時代小説史における籬島の初期作品の位置を捉えることが重要であると考えた。調査により、『忠孝人竜伝』にはこれと同じ内容の実録『敵討忠孝伝』(成立年代不明)のあることが明らかになった。全編に渉る差異の検証から両作の実録・読本としての方法的特質を捉えた上、この二作の敵討話に関しては、御家騒動や実録の素材として知られた話の複数種を、改変を加えながら組み合わせて利用した実態を見出した。さらに出版事情をめぐっては、板元書肆の開板した敵討物『小栗忠孝記』との類似性を考えた。以上に述べた、複数の事象に渉り実録領域との影響関係を明らかにした結果には、後年の軍記の図会化に関して題材の方向性の点から作者の著作間連関を捉えた意義と、近世中後期小説史のなかで籬島の初期小説に実録種の絵本読本に先行する位置付けを見出す意義があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的の一つである、文運東漸後の上方での読本の制作出版から上方文化圏の動態を解明する点に関して、読本作品を対象に、同題材の文献の探索と関係性の検証を通じて実録との関係を割り出すことを達成し、秋里籬島の初期小説から近世後期読本への展開を実証的に明らかにするに至っている。このことは従来その意義が捉えられていなかった初期作品の形成に上方小説界全般の動態に通じる事象を見出した結果であり、安永・天明期から寛政~文化・文政期の小説史に有機的な連繋を考えることが可能となった。歴史的事象に関する作者の思想の問題については次年度以降の調査研究とあわせ、包括的に考証していく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初期活動の解明に加え、名所図会シリーズ以降の、中期から後期の作品群を対象に、制作方法の調査分析と、その外部環境すなわち板元書肆を中心とする出版事情と読者意識を主とした時代の文学傾向の問題の究明を融合させて考証を行っていく。とくに作品分析によって浮上する特質について、その要因を分析する。作者に関しては個々の問題にとどめず交渉のある文学者や文芸圏を俯瞰し、その動態が文学形成に如何に投影されるのか考えていく。こうした手法で作品群の文芸史上における意義を明らかにすることを試み、この時期の上方文学の評価の再考を目指していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当年度末において未完了の調査研究についての未使用額がわずかに生じている。これを次年度に継続遂行するために繰り越して使用する。具体的には、当年度に考証の成果を公表した初期小説に続く諸作に関する研究が次年度にかかる状況である。これとあわせて当初の翌年の研究内容を遂行する研究費を使用する計画である。
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