研究課題/領域番号 |
24720111
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
藤川 玲満 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (20509674)
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キーワード | 国文学 / 近世文学 / 出版 / 秋里籬島 |
研究概要 |
本研究は、近世中後期上方における作者と出版書肆の相関と動態、及びその影響下に文学が生成される在り方を解明することが目的である。本年度は主として、秋里籬島の末期作品を対象に、成立事情と板元書肆に関する調査研究を行った。本願寺第8世蓮如の旧跡に解説を施す内容を持つ『蓮如上人御旧跡絵抄』の成立については、作者自身と宗派(浄土真宗)との関係がその素地に捉えられるが、作者の周辺環境からの検証結果として、図会物の流行、および京都書肆吉野屋為八の関与した真宗関連書・二十四輩物の展開との近接した関係、即ち名所図会の派生作『二十四輩順拝図会』が大坂書肆のもと別作者の手に成ったことの傍らに、開祖親鸞・二十四輩から蓮如に転じる着想で作られたことが考えられた。これと同時に捉えられたのが、蓮如の伝記物の系譜との関連であり、『蓮如上人御一生記絵鈔』をうけて対象を伝記から旧跡に転じているものと考えられる。本作の板元伊豫屋佐右衛門に関しては、活動を経年的に捉えた上で、特に俳書および小説の出版に着目して分析し、蕉風復興運動や、江戸との影響関係のもとに展開する読本制作といった上方文学界の情勢に連動した在りようを明らかにした。以上の結果には、名所図会シリーズ以降の籬島の作について、図会との繋がりだけでない観点での探索によって、仏教関連書の系譜と時代的動向に看過できない関連を見出した点と、宗派の題材や関係の板元書肆という初期活動に通ずる特質的要素の解明が、籬島文学の生成という見地での考証の材料となる点で意義があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の一つである、上方文芸圏の実態とその文学形成への影響を秋里籬島作品とこれに関与する出版者らの動態から捉えていく点に関して、著述活動の末期にあたる文化年間の作品を対象に、時代的・文化的動向および著述対象の観点から位置付けを捉え、出版事情までを明らかにするに至っている。籬島の後期の著作に関して、概括的に論じることでなく書物の領域に即した意味を見出した結果である。次年度の調査研究において、これまでの成果とあわせ、初期から末期に至る作者の文学環境の分析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
著作・作者・書肆の相互関係を軸に遂行した書物の形成の分析を基とし、影響や近似する性質の見られる作者・作品の系譜について調査を進め、その関係性を考察していくことと、籬島文学の全体像および上方における出版界の動態とそのもとでの文学形成の在り方として成果を総括することに努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当年度末において未完了の調査研究についての未使用額が生じている。具体的には、当年度に考証の成果を公表した末期作品に至る籬島の中後期の活動と時代的環境に関する調査・分析が次年度にかかる状況にあるためである。 古典籍調査のための所蔵機関への旅費と資料収集・文献購入の費用として主に使用する計画である。当年度末に繰り越した額は、上記の未完了の調査研究を次年度に継続遂行するために使用する。これとあわせて、当初の次年度の研究内容を遂行する目的で、当初の次年度の研究費を使用する。
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